第56回「航空発祥の地」で演奏する「ひこうき雲」パイオニア吹奏楽団

コラム

2013年 12月 18日

前回までのこの欄では第24回定期演奏会の第1部に演奏する予定の曲目について述べてきました。今回は第2部に演奏する予定の「ひこうき雲」に関する話題を取り上げたいと思います。

「ひこうき雲」は、元々は1973年に発売された荒井由美さんのシングル「きっと言える」のB面の曲です。すぐ後に発売された荒井さんのファーストアルバムの名前にもなっています。当時もそれなりに売れましたが、今年になってスタジオジブリの映画「風立ちぬ」の主題歌になり、再び脚光を浴びました。それを受けて40周年記念盤のアルバム「ひこうき雲」も発売されています。

その「ひこうき雲」が主題歌となった「風立ちぬ」ですが、ご存じの通り今年の映画界で最大のヒットを記録しました。飛行機に憧れ、戦闘機の設計に心血を注ぐ主人公の姿が描かれましたが、同時に第2次世界大戦の日本軍の主力戦闘機だった零戦にもスポットが当たりました。公開後に宮崎駿監督が引退を表明したこともあって、映画は更に注目を集めた感があります。

所沢航空発祥記念館 ジェットエンジンの姿をモチーフとしている

さて、当団が定期演奏会の会場としている所沢市民文化センター「ミューズ」のある所沢市は、航空機の歴史において重要な位置を占めています。1911年に日本で初めての飛行場が完成しましたが、その場所が所沢市だったのです。それを記念して所沢市は自らを日本における「航空発祥の地」としており、その記念碑も建てています。更に所沢市役所の隣には航空機関連をテーマとした所沢航空発祥記念館があり、またその記念館を含む一帯は航空記念公園として整備されています。

その所沢航空記念発祥記念館は、テーマとする航空機の大きさもあって館内だけでなく航空記念公園やその周囲にも機体展示をしています。その中でも最も有名なものは最寄り駅である西武新宿線航空公園駅を降りると真っ先に目に飛び込んでくる「YS-11」でしょう。この「YS-11」は戦後の日本における唯一の国産旅客機であり、1960年代に国の総力を上げて開発されました。現在は全ての機体が引退していますが、この航空公園駅前の「YS-11」は今も残る数少ない機体の1つとなっています。

このように航空機の歴史に関係の深い所沢市ですが、昨年の12月から今年の8月にかけて「風立ちぬ」で話題となった零戦の企画展示が所沢航空発祥記念館でありました。零戦はただの飾りものではなく、まだエンジンも回る(!)ということで、航空機ファンに限らず多くの方々の注目を集めました。現代の技術でも約70年間現役で駆動系の機構を動かすというのは並大抵のことではなく、当時の設計や生産技術の高さが窺えます。「風立ちぬ」の影響もあってこの零戦の企画展示は予想以上の反響があり、当初は4ヶ月間の展示期間予定だったところを最終的には9ヶ月間に延長されるほどでした。

昨年12月から今年8月まで所沢航空発祥記念館で企画展示された零戦

もっともこの展示された零戦は日本のものではなくアメリカの航空博物館の所有であり、日頃日本で見ることはできません。「なぜ日本のものではないの?」と思われるかもしれませんが、これは終戦時にアメリカがサイパンにあった零戦を接収したことによります。今回展示された零戦はそのうちの1機だったわけですが、機体の老朽化も進んでいることから今回が日本における最後の展示と見られています。とはいえ、零戦が残した足跡は永遠に残るものであり、「風立ちぬ」のように設計に情熱を注いだエンジニアたちの想いもまた語り継がれていくことと思います。

当団の定期演奏会の会場である所沢市民文化センター「ミューズ」は航空記念公園に隣接していますので、もし定期演奏会の終了後に時間があれば航空記念公園や所沢航空発祥記念館に寄ってみては如何でしょうか。「ひこうき雲」の演奏の余韻と共に、日本の航空機の歴史を味わうことができることと思います。

文責:磨墨

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