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2010年12月17日
このコラムは月1回の更新を目安としていますが、これから定期演奏会までの間は半月に1回に頻度を上げようと思います。今回は第1部の曲の1つである「ロビンソン・クルーソー」にまつわる話を取り上げます。
「ロビンソン・クルーソー」は、18世紀にイギリスのダニエル・デフォーによって書かれた小説『ロビンソン・クルーソー漂流記』をテーマとした曲です。小説のあらすじは、船乗りであるロビンソン・クルーソーの乗った船が難破し、流れ着いた無人島で28年間暮らした後、無事に本国に帰還するというもので、海外文学の名作の1つであることから読まれた方も多いことでしょう。お送りする曲もこのあらすじに沿って展開されます。
太平洋に浮かぶファン・フェルナンデス諸島
さて、原作の『ロビンソン・クルーソー漂流記』は実話ではなく架空の物語ですが、執筆するにあたってデフォーは何かからヒントを得ていたのでしょうか。情報の限られていた時代に無人島を舞台とした小説を書いたのですから、誰かしらモデルがいてもよさそうですね。定説では、スコットランドのアレキサンダー・セルカークという人物がそれに当たるとされています。実際、セルカークは18世紀初めに南米チリ沖のファン・フェルナンデス諸島の1つであるマス・ア・ティエラ島という無人島で暮らしていました。最近の調査によってセルカークの住居跡と思われるところも発見されています。
そのマス・ア・ティエラ島は、小説のモデルであるという話が広まったことを受けて1966年にチリ政府によって改名されました。その名もズバリ「ロビンソン・クルーソー島」です。チリ政府はさらにファン・フェルナンデス諸島の中の別の島を「アレキサンダー・セルカーク島」と名付けました。前者はまだしも、後者はセルカークがその地を踏んだわけでもない無関係の島です。ここまでくると島の知名度を上げるための露骨な策としか言いようがありません。しかし、日本でも話題作りのために地名を工夫するケースは見られるので、どこの国でも考えることは似たり寄ったりだともいえるでしょう。
自然豊かなロビンソン・クルーソー島 今はもう無人島ではない
ともあれ一航海士に過ぎなかったセルカークは小説のおかげで地図上にその名を刻むまでに出世(?)したわけですが、一方でセルカークがモデルではない、という主張も出てきています。セルカークがロビンソン・クルーソーのように遭難したわけではない(セルカークの場合は乗っていた船がこの島に寄ったときに置き去りにされた)、島での生活期間が大幅に違う(セルカークの場合は4年余り)、小説中の島はカリブ海にある、といった辺りがその論拠になっているようです。とはいえ、仮に将来セルカークがモデルでないことが証明されたとしても、チリ政府がこれらの島を再度改名するようなことはおそらくないでしょう。少なくともセルカークがこの辺りでロビンソン・クルーソーのように無人島生活をしていたのは事実なのですから。
現在はパイオニアのカーナビでもお馴染みのGPSの発達等により、洋上での遭難の危険性はぐっと減っています。無人島生活もテレビのバラエティ番組の題材になってしまうくらい時代が違います。それでも自分がもしロビンソン・クルーソーのような状況になったらどうするだろう、と思わず考えてしまうような話ですね。ロビンソン・クルーソーの時代には戻れませんが、ストーリーを思い浮かべつつ、いろいろと想像を巡らせながらこの曲を聴いていただければと思います。
文責:磨墨
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