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2012年 3月 5日
前回に引き続いて当団の第22回定期演奏会でアンコールとして演奏した曲の話題を取り上げたいと思います。今回はアンコールの最後にお送りしたコンサートマーチ「アルセナール」です。
「アルセナール」は1995年にベルギーのメヘレンを拠点とするバンドである鉄道工場吹奏楽団の創立50周年を記念して作曲され、1996年にそのメヘレンにて初演を飾りました。作曲者は、今回の定期演奏会における第1部のメインプログラム「交響詩『モンタニャールの詩』」の作曲者でもあるヤン・ヴァン・デル・ローストです。「交響詩『モンタニャールの詩』」が作曲されたのが1996年ですので、「アルセナール」はちょうどその前に書かれた曲ということになります。
メヘレンのシンボルである市庁舎 観光客も多く訪れる
この鉄道工場吹奏楽団の拠点であるメヘレンは、ベルギー北部に位置する人口約8万人の街です。特に大きくはないもののその歴史は古く、8世紀にはその名が歴史上に見られます。そのメヘレンの長い歴史の中で最も繁栄したのはネーデルランド(現在のオランダ・ベルギー両国)の首都だった16世紀前半と言えるでしょう。首都だった時期はわずか25年ほどでしたが、その華麗な時代は確固たるものとして歴史に刻まれています。現在もその当時を偲ばせる建物が残っており、その中でも鐘楼群は世界遺産として登録されていることもあって多くの観光客を惹きつけています。
そんなメヘレンの街が生んだ「アルセナール(ARSENAL)」ですが、曲名の意味するところは「兵器工場」です。やや物騒なタイトルのように見えますが、元々鉄道のような輸送機関は軍事的な側面を強く持っており、特に19世紀半ばから20世紀初頭にかけてのいわゆる帝国主義の時代には兵站の面で最も重要なインフラでした。したがって、メヘレンの鉄道工場の設立時には単なる生産工場としてだけではなく、多分に軍事的な背景もあったことと推察されます。実際、鉄道工場吹奏楽団の原語名にも"ARSENAAL("ARSENAL"のオランダ語)"と入っており、曲名の由来もここにあるものと考えられます。
その鉄道という観点で見ても、メヘレンは歴史上に名を残す街です。世界初の鉄道は1825年にイギリスで開通したのがよく知られるところですが、ヨーロッパ大陸では1835年に開通したメヘレンとベルギーの首都ブリュッセルを結ぶ鉄道が最初の商用鉄道でした。決して大国とはいえないベルギーがフランスやドイツより先に当時の先端技術の粋である鉄道を開通させたとは意外な感じがしますね。メヘレンはブリュッセルと港湾都市アントワープの中間にあることもあり、現在も主要幹線上に位置しています。このように見てみると、メヘレンは正に「『アルセナール』の街」である、と言いたくなりますが、それはさすがに強引でしょうか。
19世紀当時のベルギーを走る機関車
今回の定期演奏会のアンコールで当団がこの「アルセナール」を選んだのは、もちろん曲そのものがアンコールにふさわしいと思ったからですが、一方で作曲者がメインプログラム「交響詩『モンタニャールの詩』」と同じヴァン・デル・ローストであることに合わせた面もあります。当団としては初めてメインプログラムとアンコールの最後の曲の作曲者が同じというスタイルになりましたが、プログラムの型としてはこのような方法もよいのではないかと思っています。
先にも書きましたが、「アルセナール」は鉄道工業吹奏楽団の創立50周年を記念してできた曲です。当団の歴史はまだその半分にも満たないものですが、もしこの先活動が50年目まで続けば、どこか名のある作曲家に作曲を委嘱できるほどになっているかも(?)しれません。妄想めいた話ではありますが、そんな日が来ればと頭の片隅で願いつつ、また心新たに活動を行っていきたいものだと思います。
文責:磨墨
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