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2013年 1月 21日
前回までのこの欄では第23回定期演奏会の第1部に演奏する予定の曲目について述べてきました。今回は第2部に演奏する予定の「ムーンライト・セレナーデ」に関する話題を取り上げたいと思います。
「ムーンライト・セレナーデ」は、1938年にアメリカの作曲家でありトロンボーン奏者であるグレン・ミラーによって書かれた曲です。ミラーはスウィング・ジャズの巨匠の1人であり、彼の設立した「グレン・ミラー楽団」はミラー亡き後も現在に至るまで世界的なバンドとして活動しています。ミラーの曲は吹奏楽のアレンジも多数なされており、「ムーンライト・セレナーデ」の他にも「茶色の小瓶」や「真珠の首飾り」、「イン・ザ・ムード」といった名曲は吹奏楽でも定番となっています。当団でも第7回定期演奏会及び第19回定期演奏会で「イン・ザ・ムード」を演奏したことがあります。
イギリスのベッドフォードに建つグレン・ミラーの像
タイトルの中の「セレナーデ(serenade)」は、「夜に窓の外で恋人を想って歌う(あるいは演奏する)曲」といった意味で、日本語では「小夜曲」と訳されます。したがって「ムーンライト・セレナーデ」を全部訳すと「月光小夜曲」となりますが、シンプルでありながら原題の雰囲気を伝える上手い訳だと思うのは筆者だけでしょうか。
その「ムーンライト・セレナーデ」は、元々1935年に「ナウ・アイ・レイ・ミー・ダウン・トゥー・ウィープ」というタイトルで歌詞付きで作曲されました。そのときは特に売れたわけではなかったのですが、その後1939年に演奏のみで改めて「ムーンライト・セレナーデ」として世に出されると大ヒットとなりました。それを受けて後に元の曲とは別の歌詞が付けられています。最初の歌詞がちょっと可哀そう(?)ではありますが、もし改題して再リリースされなければ今に名曲として伝わらなかった可能性もあったのですから、音楽の運命とは実に不思議なものです。
そんな大ヒットを生んだタイトルですが、命名についてはこんな話が伝わっています。ミラーが師事していた先生から作曲の宿題を出されたのを受けてこの曲をピアノで弾いていたところ、それを聴いた妻のヘレンが、「この曲のタイトルを『ムーンライト・セレナーデ』にしたらいいわ」と言った、というのがそれです。しかし、もしこの話が本当だとすると、宿題として作曲していたものが既に世に出ていた曲というトンチンカンなことになるので、これは俗説に過ぎないかもしれません。とはいえ、ヘレンが命名に何かしら貢献していたとしたら、「内助の功」は実に大きかった、ということになりますね。
グレン・ミラーが行方不明になったときに乗っていた航空機の同型機 1944年にドーバー海峡を飛行中に消息を絶った
このように改題したことにより一躍ヒットしたジャズのスタンダードナンバーの中で他に有名なものには、バート・ハワード作曲の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」があります。当団の昨夏の第10回アンサンブルコンサートでもお送りしたこの曲は、元はといえば「イン・アザー・ワーズ」というタイトルでした。それが後に改題され、フランク・シナトラが歌ったことで大ヒットとなりました。改題されなければ無名のまま埋没していたかもしれないという点だけでなく、「月」に関する曲であるという点も「ムーンライト・セレナーデ」と共通する面白いところです。
「ムーンライト・セレナーデ」も「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」もタイトルの力で日の目を見たわけですが、とはいえ曲自体にも力がなければここまでヒットしなかったことでしょう。そう考えると、今は無名でも後にヒットとなる曲が案外近くにあるかもしれません。当団でもまだあまり知られていない曲でもよいと思って取り上げることがありますが、そういった将来の名曲の原石を探すような試みを今後も続けていきたいものだと思います。
文責:磨墨
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