吉村 充史

ブラジルの素敵な音の記憶

バイーア州 サルバドール
海岸沿いのホテルに着いて、窓を開けるとポルトガル語の喧騒にまぎれて潮騒がかすかに聞こえてきた。ラジオをつけるとジャヴァンの切ない歌声が流れてきた。こうした何気ないけれど無数の「ちょっぴり素敵なこと」が、豊かに心を満たしていったバイーアでの3日間。
教会での新年のミサ、ダンスショーに感動し、フルーツや魚、肉、雑貨、それに豚の内臓や目が並んだ市場にカルチャーショックを受けた。クリスマスの飾りが残った石畳の通りも素敵だった。料理もみな美味しかった。

でも、一番衝撃を受けたのは、格闘技カポエイラだ!
小さな建物の2階にあるカポエイラの教室に入る。ビリンバウの音が一定のリズムで2つの音階を行き来する。バンデイロや手拍子のリズムが入ってくる、2人の男が側転しながら床に描かれた大きな輪の中に入る。
次々に繰り出される足技。褐色の肉体が躍動する息をもつかせぬ攻防、その美しさに陶酔した。私は、衝動的に教室のロゴが入った、カポエイラ用のズボンを買ってしまったのであった。

リオ・デ・ジャネイロ
深夜、出店で賑わう雑踏にバンで乗り込む。車を降りて少し歩き、着いたのはエスコーラ・ジ・サンバ(サンバチーム)、マンゲイラの練習場。昨年のカーニバルで優勝した名門チームだ。人の波をかき分け建物の中に入ると、中は異様な熱気が支配していた。

2階席から何やらマイクで叫んでいる男性がいた。しばらくするとカヴァキーニョの軽やかな音が流れ始めた。満員の場内がさらに熱気を帯びてくる。
その時、白根さんが缶ビールを買い、小刻みにステップを踏みながら移動し始めた。一番“おいしい”場所を知っているに違いない! 私も小刻みにステップを踏みながら鮨詰め状態の中後を追ってみると、バテリア―打楽器隊―が2階のテラスに陣取っている場所の真下に着いた。頭上でタンボリンの乾いた音が心地よく3連譜を刻んでいた。
突然、ツッダーン、ツッダーンとスルドの音が重く2拍子を刻み始めた。頭上からのものすごい音圧。この状況で踊らずに静止しているのは不可能だ。私は衝動的に、マンゲイラカラーのピンクと緑色のTシャツを買って3時過ぎまで踊りまくってしまった。

リオでの日々…。コルコバードのキリスト像、コパビーチ、パケタ島、植物園、イパネマで聴いたボサノバ…。
いつか行きたいと思っていたリオ。リオは期待以上に素敵な街でした。

音の記憶
サルバドールでのこと。民芸品市場で小さな太鼓を買って広場に出ると、川崎さんが目を閉じて座っていた。広場で語らう人々や子供達の声、物売りの声、それにかすかに混じって教会から聞こえる祈りの声を静かに聴いていたのだった。
私も真似して目を閉じてみると、一気にいろいろな音が耳に飛び込んできた。その時に、聴覚の記憶によって旅の記憶、その土地の記憶が、より豊かになることを実感した。それから、素敵な音を捜し求めることを意識した。

10日間で録音したMDは4枚だが、もっともっとたくさんの音を路地や市場や教会、海岸…何気ない場所で心に刻んできた。そうした音の記憶が、私のブラジルの記憶をより鮮やかにしている。音の記憶の持つ力を知った旅。そして音に耳を傾ける楽しさを知った旅。 そんな、私にとって初めてのサウンドバムでした。

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