駒沢:
その本にもあるけど、"St. GIGA"*の音収録の現場にライターとして参加できたのは、すごく大きな体験でしたね(* St. GIGAは1991年に日本で開局した衛星音楽放送。「太陽と月と海のリズム」によって、毎日変化していくタイムテーブルにさまざまな音楽と自然をのせながら、「音を通じて自然と同調する」ことを目指した。今世紀が生んだ、奇跡的な放送メディアのひとつ)。あるときその収録で、北海道の富良野へ行ったんです。この日サウンドのディレクターは、100万円もするっていう、特別なマイクを持ってきていたんです。桐の箱に、真綿でくるまれて入っているんですよ。
駒沢:
でも、目に見えている風景は変わらないわけですよ。この落差がスゴイんだなあ。人の能力的限界をマイクが超えているだけであって、決して嘘ではない。そこがおもしろい。それまでボンヤリとしか感じていなかった世界が、こんなにさまざまな音に溢れて、美しいなんてねえ。
駒沢:
岡野弘幹さんのプロジェクトです。Hot Wired/日本版に詳しく書いたけど、ほんとうに新鮮な驚きがあったんですよ。彼は、カバンに大量の風鈴をしのばせて、ロケにやって来た。"St. GIGA"の放送用に自然の音を収録して、その仕事がひととおり終わった日、森の中に500個の風鈴を吊り下げはじめたんです……。
駒沢:
そのうち、まわりには吊る場所がなくなってくる。なにしろ数が多いから。で、どうするかっていうと「音が鳴ってくれないと意味ないよねぇ」とか言いながら、短冊の揺れを頼りに、音が鳴るほうへと歩いていくようになる。つまり、風の道を風鈴でたどってくんです。
駒沢敏器(こまざわとしき)
1961年東京生まれ。アメリカ文学の翻訳をはじめ、取材を中心にさまざまな文章を手がける。
著書に「街を離れて森の中へ」「ミシシッピは月まで狂っている」など。
インターネット上では、Hot Wired/日本版に「生命の音」という連載を寄せている。