舘内:いやー、いいセンスしてますね(笑)。僕は、レーシングカー・エンジニアの仕事を経てきたけど、入口はやっぱり音だった。強い体験がふたつあります。どちらも小学生の時で、ひとつはバイクの音でした。上の兄貴が当時大学生で、オートバイの車体強度を研究していた。昭和30年代前半だから、まだまだ音の取締りがなくて、休日になるとマフラーをおっぱずしたバイクにまたがった兄貴の友だち連中が、これから浅間山へ行くんだとか、赤城山へ行くだとかいって(笑)、15人か20人ぐらい家の前に集まってくるんです。その音がものすごくて!
舘内:荷台にね。音を録りに行くんですよ。皆さんはご存知ないと思うけど、あの頃、富士スピードウェイには40度バンクというのがあったんです。ストレートでずっと行って、バンクになりながら落ちていく。そこで何人も死ぬんです。幸い僕のつくったクルマで死んだ人はいないけど、幸運なだけの話ですよ。そのバンクの上から音を録ったり、ヘアピンに戻って録ったりしてた。あのテープは、何度聴いたかわからないです。まだ、探せばあるかもしれない。
舘内:ほとんどエンジンですよ。そのエンジンはなんなのって言ったら、「力と音」ですよ。でも音がでかくて力が強けりゃいいか、っていうとそんなもんじゃない。力の出方とか、音の質だとか、ひじょうに微妙なものです。レーシングカーの音から、クルマやレースカーが好きになったっていう人は多いんだけど、そうやって近づいてきた人は、生命体としてすごい深いところでクルマを感じているんです。頭じゃなくカラダ全身で。エンジンのかかっているレーシングカーに5、6メートルまで近づくと、触らなくても振動が感じられるんだよ。音の振動を、カラダで感じる。音っていっても、おそらく耳だけじゃなくて全身でとらえている。そこでレーシングカーにハマッちゃったら、もうたぶん一生抜けられないね(笑)。
舘内:EVも音はするんですよ。おもにモーター音とコントローラーの音かな。発進時にはスイッチの音がしますね。300ボルト500アンペアぐらいの大きめの電気を流す、小型の変電設備が付いているから、カチャーンという音がする。スイッチが入ると、バチッカチャーン。その後はモーターの音とギアのノイズと、一部コントローラーの音。でも、いずれも微少。あとは、エンジンのクルマも同じだれど、風切り音とタイヤの音ですね。
舘内:EVにシフトしなけりゃいけない、ってことはわかっているんですよ。でも、エンジンこそ彼らのアイデンティティだし、技術力の結晶なんだ。いわゆる自動車メーカーは、エンジン以外の大半は外注で、下請けの中小企業をピラミッドの基盤にした構造を持っている。自分たちの所有技術は、極端な話エンジンだけなんです。それが、モーターにかわっちゃうってことは……。
舘内:
クルマ好きを電友1号に乗せるときは、注意しないといけないんだ。今まで経験したことのないことを味わうんですね。降りてきたときには、足がガクガク震えています。実際いたんですよ。翌日から3日間高熱を出しちゃった人とか。「舘内さん僕はだれでしょう?」なんて、つぶやき始めたりする(笑)。「おまえ大丈夫か!」みたいな。大変な自己崩壊もあり得るんだよね。そこでわかるのが、クルマというのは音と振動で構成されていたんだ、ということなんです。
舘内 端(たてうちたかし)
1947年、群馬生まれ。自動クルマ評論家。日本大学理工学部を卒業後。東大宇宙航空研究所勤務の後、ベルコ・レーシング入社。77年より、フリーランス・エンジニアとなる。94年10月、ボランティア組織である日本EVクラブ設立。主な著書に、『クルマ考現学』(双葉社)、『クルマ運転秘術-ドライビングと身体・感覚・宇宙-』(勁草書房)、『超絶 スキー&ドライブ論』(スキージャーナル社)、『800馬力のエコロジー』(ソニーマガジンズ)などがある。