佐野:わかりました。僕が日常、音とどう付き合っているか、少しお話ししてみますね。僕はミュージシャンなので、レコーディングには大抵スタジオを使います。閉ざされた空間の中での作業です。去年僕は、ニューヨークから車で北へ約3時間ぐらいのところにある、ウッドストックで、レコーディングをしました。ベアズビルスタジオといって、ウッドストックの森の中にあります。
佐野:いや、ただの小屋なんです(笑)。ですから、レコーディング中でも、みぞれが降ってくれば、それが屋根にあたる音が聴こえる。にわかに曇り空になって風が強く吹き始めれば、外でヒューと鳴る音が聴こえる。そんなふうにして、ある種自然に抱かれたレコーディングを経験したんです。
佐野:自分のヘッドフォンから、目の前のヴォーカルマイクが拾った、非常に細かな外の音が伝わってくる。スタジオの外に広がる、ウッドストックを感じながら歌った楽曲が、何曲かあるんだ。具体的に言うと「誰も気にしちゃいない」っていう曲を録音している時、外では夏の雨がシトシトと降っていて、緑が非常に鮮やかだった。それは、そこはかとなく聴こえるはずです。
佐野:たぶん、風で埃や土埃が擦れる音だろうね。山の頂から流れてくる、遠くで鳴っているせせらぎとか、ダムの音。それらが全部一つになって…。
佐野:それって、環境音を日本人は左脳で受け取り、西洋人は右脳で受け取っているっていう説だよね。その説をはじめて聞いた時、面白いって思った。しかし僕は、本当かなとも思った。うん、と言うのはね、こういうこと。
10代のときに聴いたあるビートルズのレコードがある。それは「アビーロード」。その中で、ある曲が始まる前に環境音が入っていて、虫の鳴らす「トゥトゥ、トゥトゥゥ」っていう音がね、静かに流れてくるんだ。僕はそれを聴いたときに、「ああ、秋の虫なのかな。すごく景色が見えるようだよ」って、いい感じで受け取っていたの。
佐野元春(さの もとはる)
1956年生まれ ロックミュージシャン。代表作品として「サムデイ」、「ヴィジターズ」「ザ・バーン」などがある。
ポエトリーや、雑誌の編集などの分野においても活動。
国内において、最も初期の段階からインターネットに参加したアーティストの一人。