Vol. 08 藤本和典さん

自然の声に耳を傾けてみると……

藤本さんのお仕事は、何て説明したらいいんでしょう?
藤本:肩書ですか。何だろうな。ひと言でいえば、自然と人をつなぐような仕事。自然というのは人間にいろんなメッセージを出してるんですよね。音もそうだし色、形、いろんな様を見せてくれてるんだけどもみんな気がつかないですよね。それを私が翻訳して伝える、そういう仕事だと思ってます。
たとえば、ある大手住宅メーカーに、年に8万から10万戸つくっている住宅の庭先には、その土地土地の緑を植えて身近にいる生き物たちがみんな帰ってくるような庭づくりをセットしたほうが楽しいでしょ、という話をしたり。それを実践して30何年間、庭先に鳥、カエルや昆虫を呼んでいるおばあちゃんがいるんですけど、そこにその会社の設計部長たちを一緒に連れていってあげたりとかね。
図鑑も出しています。自然から私が今まで感じたもの、そして、皆さんに伝えなきゃと思ったことを全部メッセージにして入れて。今までの図鑑というのは見た目の特徴とか識別点とか、そういうことばかりが強調された図鑑なんですよ。そうではなくて、私は暮らしぶりとか、どうやったら見つかるよとか、そういうことを中心にした書き方の図鑑にしているわけです。
私は、子供のときから自然がとても好きだったんです。子供のときから昆虫少年。釣りもやりました。植物の観察もやりました。そういうことをずうっと続けて、そのまま職業になっちゃったんです。そういうなかで、自然好きをひとりでも多くふやそう、っていうことがいちばん大切なことかなと思ったんです。
「音を楽しみに出かける旅」なんていうと、どう思いますか?
藤本:ああ。いい場所いっぱいありますよね(笑)。やっぱり十和田湖から奥入瀬に入って、それから蔦温泉の裏の蔦野鳥の森、これの5月の連休前後。カジカガエルの声からアカショウビンの、赤いカワセミの声ですね。まあそれがいるってことは、おそらく50種類以上の鳥がいるってことなんですけどね。それとちょっと奥へ入れば、あのへんもクマゲラの繁殖地ぐらいのすばらしい場所ですからね。それと、あの蔦野鳥の森の中にはモリアオガエルの産卵している池があるでしょ。6月、7月になると、夏ミカンぐらいの真白い泡の塊(卵)が木にいっぱいぶら下がって産卵していきます。とてもいい環境ですね。
奥入瀬は沢音も聞こえましたっけ?
藤本:ええ、沢音もいいですよ。でも、沢音は当たり前。十和田湖畔のちょっとひなびたような旅館とか、ホテルのわきから小さな沢なんかに入っていくと、そのカジカガエルの声が聞こえてきます。もうすばらしいですよ。で、朝と夕方にはアカショウビンが、口笛を吹くように「フュルルルル」って鳴いてるのがずうっと聞こえてくるんですよね。数は減りましたけどね。
それから、姫川源流青木湖にかけて、そのちょっと上の辺り。ちょうどオリンピックで大滑降をやっていた、あの地域よかったんです。だいぶオリンピックで壊されましたけど。塩の道がある辺りもすごくいいですね。植物もとてもきれいですし、四季折々楽しめるんです。
特におもしろいのは、ホテルブルーレイクの場所には塩の道がありまして、日本海に抜けられるんです。それで、ちょうど地形的に渡り鳥のルートになってるみたい。たとえば、冬鳥がシベリアから日本海を渡ってきますね。そうすると、そこから入ってきて、ずうっと内陸に入ってくるルートみたいなんです。で、帰るときは逆なんです。
冬鳥のジョウビタキで、オレンジ色のかわいい小鳥がね、うちの庭に6年続けてシベリアから来るんです。今年もオスとメスと来てるんですが、それがかわいいんですよ、14センチぐらい。その鳥が、その塩の道沿いに春とか秋に、特に秋にはいつも単独でいるはずなのに20羽30羽と集るんです。そういう場所なんです。で、秋とか春の、ある1週間とか10日の間は両方見られると。やって来たのもいるし、帰るのもいる。東南アジアに帰っていく鳥もいるし、来る鳥もいると。
成田空港みたい(笑)。
藤本:そうそう、まさにそうですよ。そういう場所なんです。だからこのホテルブルーレイクの庭先にいるだけで、いろんな鳥の声が聞こえてきます。塩の道を散歩しながら姫川源流の辺りとか、そこは春先にはミズバショウ、ザゼンソウ、それからフクジュソウの自然群落があるからたいへん有名な場所なんですが、そういう花が咲いている上で、鳥たちの声が聞こえてくる。すごくいい場所ですよ。これはお薦めの場所です。あまり教えたくない(笑)。でもこのサウンドエクスプローラのメールを読んでいる方は、いい方ばっかりでしょう。ぜひ。
国外にもよく行かれるんですか?
藤本:先月は台湾に行ってました。主宰している、アースシェアリング協会のみんなと一緒に。もう10回以上、20回近く行ってますけどね。北から南までずっと行ってきましたけどやっぱりいいですよ、最高ですね。台湾というと、食事とか買物でしょ。そうじゃないんです。あそこはバードウォッチングとか自然観察に最高です。
それから、今興味があるのは植物や生物のたくさんいる場所ですね。コスタリカは最高です。いちばんいいところですね。一応モンテベルデという、1年を通して太平洋側の湿った空気がぶつかる熱帯雲霧林にあるので、着生植物が1本の木に300種と付いてるわけですよ。蘭だけでもコスタリカ全体で1300種類も着生植物があるといわれているくらいですから、びっしり付いてる。その中に鳥がいて、カエルがいて、セミがいて甲類の仲間、キリギリスも全部いるわけです。それが全部鳴く、そういうところです。
それで森に入ると、ネイチャートレイルがとてもしっかりしてますね。歩いて行く途中に30~40メートル以上の木がたくさんある場所で、近くに滝があるところなんですが、そこに行くと皆さんにちょっと静かにしてもらう。そうすると、聞こえてくるんですよ。
いろんなものが?
藤本:わからない。何かが聞こえてくる。あれだけ生き物がたくさんいる環境っていうのは、そうそうありません。なのに、日本のあるバードウォッチンググループが行くと、半日でぐるぐる回っちゃうんですよ。で、もう次の日帰ってしまう。
マーキングですね、ほとんど。
藤本:何種類か見て帰っちゃうんですよ。現地の人と話す機会もなく、飛行機でバアーっと帰ってしまう。そういう人が多いんですね。行ってみるとわかるんですけど、他の国の人たちはみんな滞在型です。ホテルに1カ月とか2カ月いる人もいます。ちゃんと滞在用のルームがあって、1週間以上はいくら、とすごく安いんですよ。ちゃんと調理するためのものも全部ついていて、そういう形のものがたくさんあるんですよ。
同じ熱帯雨林でも、コスタリカと西表島では、全然違いますよね。
藤本:違いますねえ。鳥の音や虫の音だけでもなくて、たとえば雨の音であるとか雷の音とかもすごい。あと、道を歩いてて音が違う。国内でいうと、明治神宮と軽井沢では音が全然違います、歩いてても。
そんなことを感じながら歩いてらっしゃる?
藤本:感じてない? 音にこだわる仕事してるのに(笑)? 軽井沢っていうのは浅間の噴石でしょ。軽石が引き締められてる。だから野鳥の森を歩いててもカサッカサッカサッという音はずうっと耳に入ります。
明治神宮は玉砂利の音です。で、高尾山は落葉の音です。でも、残念ながら主な1号路やなんかは全部、都道は舗装しなきゃいけないって美濃部さんの時代に決めたらしくて、頂上まで舗装してありますけどね。こういうバカなことしちゃいけませんね(笑)。だから軽井沢と神宮とは全然違うし、コスタリカと西表では絶対違うはずなんです、音が。それから、春夏秋冬で日本の森は音が違うんです。
日本の森が特に?
藤本:特に違うんです。四季がはっきりしてる。コスタリカはそんなに変わらないです。日本の場合は、春の音は柔らかく、夏の音はちょっと重くなって、秋はカサカサする、冬は枝の唸りだけになる。これも全部違うんですよ。それを感じてもらえるようになったら、もう最高。鳥も1年を通してシジュウカラでもヒヨドリでもウグイスでも鳴声が変わるんですよね。さえずりの時期は、たとえば2月から7月ぐらいまで。8月から1月の間はさえずりをしませんよね。だから、もうそこですごく変わってきますし。
藤本さんの本『身近な自然のつくり方』(講談社)では、たとえばベランダやバルコニーに身近な自然をつくる方法がまとまっていますね。自然環境をつくって、小さな動物たちが寄り添える場所をつくっていこう、町全体で大きな庭になろうっていう。
藤本:そうです。点が線になり面になれば、地域の自然環境が変わるという考え方でこれやってるわけですよね。
すると、オーディオセットの代わりに、鳥が集まってさえずるベランダをつくるっていう考え方もアリですよね。
藤本:そうそう。実は、公園づくりの中で前からそういう考えを持ってまして。たとえば、1年を通して虫が鳴く公園づくりとか。まあ真冬には難しい場合もありますけど、九州だとそれが可能な場合もありますよね。もしかすると坪庭なんていうのは、あれ見るだけで来てますけど、あれと同じ方式で生き物の音をいつでも感じられる庭づくりってできると思います。
先ほど鳥がね、少なくなってるっていう話をちょっとされたじゃないですか。それは当然音も減るわけですよね。
藤本:もう、ものすごい減り方です。というのは今年の夏、軽井沢でカッコウの声が聞けなかったんですよ。カッコウというのは高原の鳥の代名詞ですね。ホトトギズとかカッコウの声。ものすごく少なくなっちゃったんですよ。
カッコウは東南アジアに行って冬を過ごします。餌は、蛾の幼虫とかすごい太くて大きな毛虫なんですよ。それが冬にはいなくなりますよね。それで彼らはしょうがなくて今向こうに行ってるわけですよ。
東南アジアに?
藤本:ところが東南アジア何がありました? この2月3月に。エルニーニョの影響で寒気が続いてしまって山火事がすごかったですね。熱帯雨林がどんどん燃えましたね。あれによって彼らが帰っていた場所がなくなっちゃったんですよ。それは私たちの責任なんですよ。エルニーニョだけじゃないんですよ。
エルニーニョは気候的な悪環境を与えてしまったんですが、あれが燃えたもとの原因というのはアブラヤシ、パームヤシという、ヤシをつくるためのプランテーションのための焼畑だったんですよ。その火が燃え移っちゃったんです。パームヤシっていうのは何かっていうとヤシノミ洗剤……。それから食品にもいっぱい入ってます。あと化粧品。そういう会社が、使ってる原料を安く手に入れるために広い畑を……。日本が悪いんです。日本が焼畑をさせてるのと同じなんです。
それで、燃えてしまったあとカッコウが行ったら、何にもないわけですね。死んじゃうほかないですよ。それでも一部カッコウが帰ってきてる場所もあるんですよ。夏鳥たちが帰ってる場所があるんです。ちゃんと前と変わらなく鳴いてる場所あるんです。たとえば、菅平の上の、四阿山の山麓とか、ああいったところでは、今年行ったらカッコウがたくさん飛んで鳴いていました。それはなぜかというと、燃えてない森に帰ってるやつです。さっき、うちの庭先にジョウビタキがシベリアから来るって言ったでしょ。ひじょうに正確に戻ってくるんですよ。
軽井沢に、私はもう20数年通ってます。毎月バーディングツァーといって、ホテルに泊っている方をご案内して、鳥を見たり、自然のいろんなもの、植物、動物、昆虫のお話ししながら歩くんですけれども、20数年前に軽井沢の野鳥の森に入ったときの声と今がどれだけ違うか。
5月の一番鳥がたくさん鳴いてる、さえずってる時期に入るとですね、昔は降るように、シャワーを浴びるように鳥の声が聞こえたんです。ワァーッて何の鳥か識別できないくらい。それが今は、あ、ヒヨドリが鳴いてる。あ、遠くでオオルリ鳴いてるよ。そういう感じなんですよ。そのぐらい違います。そのぐらい減ってるんです。だから今、録音するのは大変だと思いますよ。
今は冬だから、季節的にも音は寂しいですよね。
藤本:いや、全然寂しくないですよ(笑)。冬になって僕がいちばん楽しいのは、まず秋から始まるんですけど、秋になると鳥ってさえずらないし、だんだん鳴く虫も……。鳴く虫って、実は8月の10日前後から鳴き出すんですよ。最盛期は8月下旬から9月なんですよ。よく秋ってことで、10月、11月と思ってる方は大間違いなんです。11月になるともうスゥーっと聞こえなくなっちゃうんです。10月下旬ごろからだんだん聞こえなくなります。
聞こえるのは何かっていうと、木の実の落ちる音とか。林の中でドングリが落ちる音なんていいですよ。聞いたことあります?
子供のころに多分。でも、ちゃんとはおぼえてないですね。
藤本:神宮で十分です。光が丘公園で十分です。井の頭公園でも十分聞こえます。落葉の上に落ちる音がすごくいいんですよ。でも、ドングリころころって大嘘ね(笑)。ああいうふうには絶対ならないです。
ドングリはですね、プスップスッと落ちるんです。コロコロッていうのもときどきしますけど、カチッていう音もします、下にかたいものがあればね。だいたいはもぐり込むんです。落葉にもぐり込む音なんです。
なぜかっていうと、ドングリは大きいでしょう。オカメドングリはまん丸ですよね。コナラの実は細長いんです。コナラっていうのは、木によって大きさとか形が違うの。太短いのからいろいろあるんですね。それからこれはシイの実です。こうやっていろんな形してるでしょ。実はですね、この形には意味がありまして、これ砲弾とか弾丸なんですよ。落っこったらもぐり込む形なんです。乾燥すると、もう発芽できないので、ドングリはすぐに地面の近くに行かなきゃいけないんです。落葉の下にもぐったものは根っこが出るんです、すぐ。それから春になると芽が出てくるんです。
発芽率が高いんですか。
藤本:そうです。だからできるだけもぐり込む形、地面の近く、できれば落葉の下に入りたい形なんです。これがピストルの弾丸でもあるし、また爆弾の形なんです。
それから、このシイの実とか、かたい、コーヒーを培煎したようなちょうどあのぐらいの色のエゴノキの実をヤマガラが食べるんですよ。神宮の森なんか行きますと、それを拾っては貯食をするんですけど、これから冬の間、その貯食したのを持ってきたりとか、落っこちているのを拾って、木の間で自分の好きな枝へとまって、トントントンと割って中の脂肪分のあるおいしい実を食べるんです。その音が森から響いてくるんです、そこらじゅうから。コンコンコン、コンコンコンって。これいちばん好きな秋の音です。生き物が立てる音ですよね。それがすごく好きです。
それから、もちろん落葉の上を歩くときの音。これも種類によって全部違うんです。コナラ、クヌギの音と、サクラの葉の音、それから軽井沢だったらいちばん好きなのは、カラマツの葉の音。カラマツ林が黄色く黄葉するんです。そうするとある日、冬の木枯らしがプゥーッと吹いてパァーッと広がっちゃうんです。それがちょうど道のわきに、黄色い絨毯を敷きつめたようになります。その上を歩くと絨毯を歩いてるみたい。フワフワです。落葉によって音がしたり、感触もみんな違うんです。それから秋から冬、春にかけて、早いものはだんだんそれが土に変わっていくんですよね。そうするとまた音がやわらかくなってくるんです。
雪が降った後はどうですか。
藤本:雪が降ったときはまた楽しいですよ。降ったばっかりはフワフワでしょ。もう音が違いますよね。雪の上を歩くの大好きです。降ったばっかりの雪がいちばんいいんです。たとえば、いちばん条件がいいのは、夕方から雪が降って深夜にやむ。そうするとフワフワの雪がそのままあって、その上を獣が歩くんです。そうすると獣の足跡がそこここに残るんです。リスだとか、テン、イタチ、タヌキ、キツネとか。そこらじゅうに見えるんです。もうそれを見るだけでも楽しい。歩きながらズーッと追うんですがね。
藤本さんがこれまで聞かれてきた音でいちばん好きな音とか、もしありましたら。
藤本:いちばん好きな音ねぇ……。そうですね、マツムシの声ですね。多摩川の土手もかすかにまだ残ってますけど、愛知県の知多半島に伊良湖岬というところがあります。そこの恋路ケ浜というところに毎年10月ごろになるとサシバがたくさん渡ってくるんです。タカの仲間なんですけどね。サシバ以外にも、もちろん小鳥たちが渡っていく姿が見られます。集中して来るので、その時期になると全国の野鳥の会とか自然好きがみんな集まるんです。
それで、僕は夜が楽しみなんです。昼間はもちろんキリギリスが鳴いてたりとか、すごくポイントとしてはいいんですが、マツムシが駐車場の周りのススキの薮の中やそこらじゅうから鳴き出すんですよ。海の音、それをバックにズーッと一晩中鳴いてるんです。すごいいいですよ、それは。そこらじゅうからチンチロリンチンチロリンて聞こえるんです。まさにそういう声で鳴くんです。
時間を追って変化していったりするんですか。
藤本:だいたい同じですけれども、鳴く虫はご存じのように温度によって変りますよね。温度が高いときにはテンポ高く大きくなってきます。変温動物でしょ。人間みたいに体温を持ってませんから、外気温に影響されて羽の音の強さが変わってきます。
夏場に西表島の音を、朝までつけっぱなしで聞いていると、うねりがあるんですよね。それは、じゃあ気温の変化だったんですかね。
藤本:そうかもしれませんね。鳴く虫というのは気温で鳴きますから、今度は寒くなってくると気温が高い昼間に鳴くようになるんです。だからカンタンでもアオマツムシでも秋が深くなると昼間鳴くようになりますよね。いいですよ、月を見ながら。10月10日、ジッと星を見ながら、バックに海の音、マツムシの声……、最高ですよ。

藤本和典(ふじもとかずのり)

1951年東京都生まれ。(財)日本野鳥の会を経て、現在、シェアリングアース協会代表。身近な自然を大切にする人をひとりでも多くすることを目的とし、五感を活かした自然感察会を主催するほか、地球環境ウオッチングツアーの実施、自然をテーマにしたメディアの制作監修、執筆活動などをおこなっている。NHKラジオ夏休み子供科学電話相談室出演(鳥を担当)、TBS「どうぶつ奇想天外」企画協力などに携わっている。主な著書に、『野鳥 ポケット図鑑』(主婦の友社)、『庭に鳥を呼ぶ本』(文一総合出版)、『都会の生物』(小学館)などがある。