中野 要

音の旅

人の数だけ旅のスタイルがある。私の好きな旅はカヌー、自転車、馬、など気に入った物を使い一般の交通機関をあまり使わない旅。気の知れた仲間と気に入った場所を見つけてテントを張り、酒を飲み語り合う。そんな旅で西村さん(サウンドバム主催者の一人)と出会った。

ある旅(フィジー)で移動中の休憩時間、西村さんはいつも少し人から離れて、何かもぞもぞやっている。トイレの場所を探しているのかと思い、近づいて「トイレどこなんですかねえ?」と話し掛ける。また別の旅先(モンゴル)で、西村さんがキャンプのすぐそばの草原にしゃがみ込んでいる。「西村さん、そんな所でふんばって勇気ありますね」。西村さんは笑いながら、「いやいや、音を録っていたんですよ。声が入ってしまった。中野さんの、世界ところどころ『トイレどこですか』シリーズができますね」、と大笑い。なるほど、音を録る旅があるのかと興味を持った。

そんな中、ポルトガルへ音の旅に出かけませんか、との話に飛びつく。 ポケットに入るMD録音機とヘッドホン、クリップ式の小さなマイクを身に付けて、さあ出発。趣のある石畳をコツコツと歩くハイヒールの音、車とぶつかりそうになりながら細い道を走る路面電車の音、海鮮市場の賑わい、そこで出会った陽気なおばちゃんの歌声、厳粛な教会の鐘の音、炸裂するプロサッカー試合の声援、酒場の哀愁漂うファド、ヨーロッパ最西端、ロカ岬に打ち寄せる波の音、などなど絵になる音?から普段気にしない音まで、私のMDは音に溢れていた。

日本に戻り、撮った写真を見る。虹の写真、夜景の写真、市場の写真。懐かしいとは思うけれど、見た時の感動は薄れている。ガイドブックを見ているようだ。 録った音を聞いてみる。音は違った。古い石畳を歩く音、街頭のオルゴール、街行く人の話し声、路面電車、車、そうだ、これは自分の足音? 一瞬にポルトガルの街に引きずり込まれる。

ファドのレストラン、歌と供に乾杯のグラスの当たる音、今、私の手には無いはずのポートワインのグラスが....。 市場のおばさん、「もう一回私の歌が聞きたいのかい」。歌いだす、周りの笑い声、目の前にはカラフルなフルーツの山....。 寂れた港街、漁船のエンジンの音、漁師の元気な声、バケツの中で魚が跳ねだす、美味そうだ....!
街が、人が、色が、頭の中にあふれ、こぼれ出す。 これが音の旅? 私はふたたび、ポルトガルの旅人となる。 (01/02)

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