報道資料:高性能電子放出素子(冷陰極素子)「HEED」を発明HEED=High Efficiency Electro-Emission Device

ここに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がありますので、あらかじめご了承ください。

Pioneer
1997年 3月 17日
パイオニア株式会社

高性能電子放出素子(冷陰極素子)「HEED」を発明
HEED=High Efficiency Electro-Emission Device

 当社は、驚異的な電子放出効率を達成した高性能電子放出素子※1「HEED」を発明いたしました。
 この「HEED」は電子放出効率30%を達成(従来の冷陰極素子※2では1%以下)、飛躍的な高性能化を実現しました。これにより、将来の理想的なフラットパネルディスプレイとしての応用や、来たるべき超高速エレクトロニクス時代に必要な真空マイクロエレクトロニクス素子※3への応用などの道が開けました。
 当社は、大きな可能性を持つこの素子の今後の事業化に向けて、積極的に開発を進めてまいります。

※1 電子放出素子: 電子を真空中に放出するための素子。
※2 冷陰極素子: 金属を高温にすることなく、強い電界を掛けるだけで電子を真空中に放出する素子。従来の真空管やCRTのようにヒーターを必要としないため、高集積化や平面化に適している。
※3 真空マイクロエレクトロニクス素子: 半導体の微細加工技術により実現可能になったミクロンメーター(ミクロンは百万分の1)オーダーの微小真空管。真空中で電子が高速に移動する性質を利用しているため、半導体を用いた素子に比較して大幅に高速な動作が可能となる。

【開発の背景】

 近年ディスプレイ分野や半導体分野では、高性能電子放出素子の研究が世界的レベルで行われています。その目的は放出される電子エネルギーを利用して、理想的なフラットディスプレイが実現できることです。また、将来のエレクトロニクス分野においての半導体では追い付かない100ギガヘルツ(ギガは10億)以上の超高速化に対応できる真空マイクロエレクトロニクス素子等に応用することです。
 これまで、電界放出(スピント)型、金属-絶縁体-金属(MIM)・ダイオード構造型、金属-絶縁体-半導体(MIS)・ダイオード構造型などの、さまざまな冷陰極素子の開発が試みられてきました。その中でもダイオード構造型の陰極は、高い真空度を必要とせず、高性能な冷陰極素子として期待されています。しかし、これまでは電子放出効率が1%に達せず、実用化には至っていませんでした。

【「HEED」の特長】

 今回、当社はMIS・ダイオード構造型の冷陰極素子で驚異的な電子放出効率を達成しました。これは、シリコン(Si)薄膜と極薄い白金(Pt)電極の間に独自の成膜法によってアモルファス酸化シリコン(SiOx)膜を設けることにより実現したものです。
 アルミニウム(Al)電極とPt電極に60ボルト程度の電圧(Vd)を掛けると、電子がPt電極表面から飛び出ます。さらに電圧を増していくと加速的に電子放出が増大し、90ボルトで大放出電流1.8ミリアンペア/cm2が得られ、電子放出効率が従来より約2桁高い30%に達します。

 これまでダイオード構造型の冷陰極素子では、絶縁層として、トンネル効果※4のおこる数ナノメートル(ナノは10億分の1)の極薄い膜厚で、かつ絶縁破壊の生じない非常に均一な薄膜で研究されてきました。この様な絶縁層は、生産性が悪く大面積なものを得ることは困難でしたが、それに対し今回発明された素子に用いられている絶縁層は、これまでのトンネル効果の理論では説明のできないような、数百ナノメートルという厚い酸化シリコン膜で大放出電流かつ高効率を実現しました。(発明者の名から「根岸効果」と命名)
 この平面電子放出源をフラットパネルディスプレイに用いた場合、印加電圧90ボルト、加速電圧5キロボルトで、通常のブラウン管用蛍光体を用いて8万カンデラ/m2の高輝度が得られます。

※4 トンネル効果: 金属-絶縁体-金属の構成において、絶縁膜が数ナノメートル程度の極薄い場合、両方の金属電極の間に高電界を掛けると、電子が絶縁体膜を通過する現象。

他の報道資料を探す

キーワードで探す

年月で探す