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ホログラフィックメモリ用高性能材料と小型記録再生システムの開発に成功~角砂糖サイズに1テラビットの記録が可能な21世紀の情報ストレージに向けて~
ホログラフィックメモリ記録再生装置と記録材料
ホログラフィックメモリ用材料(定比組成ニオブ酸リチウム単結晶)
科学技術庁無機材質研究所(茨城県つくば市/所長:木村茂行)とパイオニア株式会社(東京都目黒区/社長:伊藤周男)は、ホログラフィックメモリ(*1)用高性能材料とこれを用いた小型記録再生システムの開発に成功しました。 今回開発した材料は、定比組成(*2)ニオブ酸リチウム単結晶で、紫外光照射によって任意に初期化が可能であり、従来の熱処理による初期化を不要にしました。また、二色ホログラム法での記録により、再生劣化のない不揮発記録を可能にしました。 ホログラフィックメモリの研究については、無機材質研究所とパイオニア株式会社が2000年1月に共同で執筆した論文が、科学雑誌Natureのウェブサイトにトピックスとして高評価をもって紹介されるなど、学術的にも注目を集めています。 現在は研究開発段階ですが、今後材料の高感度化による情報の高密度化等を図ることにより、将来的にはテラバイト級の光カードなどへの応用が期待されます。
高速ネットワークをバックボーンとした高度情報化が加速度的に進み、高速大容量ストレージに対する要求は限りなく高まっています。 ホログラフィックメモリは、情報の記録を媒体中に三次元的に行うことで高記録密度化を行い、さらに二次元の画像を単位として情報の記録再生を行うことで転送速度の高速化が期待できる魅力的なストレージ方式です。 原理的には1立方センチメートル程度の小さな結晶中に1テラ(T : 1 x 10の12乗)ビットの情報が記録でき、1秒間に1ギガ(G : 1 x 10の9乗)ビット以上の高速転送が可能になります。ホログラフィックメモリは、大容量と高速転送を同時に実現可能な新たな概念のストレージとして期待されています。 ホログラフィックメモリ用材料に関して世界最高水準にある科学技術庁無機材質研究所と、ホログラフィックメモリの実用化に向けた要素技術の研究開発に取り組んできたパイオニア株式会社は、平成10年からホログラフィックメモリの共同研究を進めてまいりました。
今回、定比組成ニオブ酸リチウム単結晶をベースとした新たなホログラフィックメモリ用記録材料と、これを用いた小型記録再生システムを開発しました。 開発した記録材料と記録再生システムの特徴は以下の通りです。
1 ) 記録材料
無機材質研究所では、原料自動供給による二重るつぼ引き上げ単結晶育成法の開発により、定比組成ニオブ酸リチウム単結晶を育成することに成功しています。これは、従来の一致溶融組成(*3)ニオブ酸リチウム単結晶に比べて欠陥が一桁以上少なく、非線形光学応用や光制御の分野でも様々な性能改善の可能性が見出されています。
紫外光照射による初期化
今回、この定比組成ニオブ酸リチウム単結晶をベースに、新たに鉄とテルビウムを添加した単結晶を開発しました。この単結晶に紫外光を照射することで任意の場所を選択的に初期化し、その部分を記録領域として可視光レーザでホログラム多重記録を行うことに成功しました。今回は532nmのレーザ光を用いて、従来の鉄添加一致溶融組成ニオブ酸リチウム単結晶と同等以上の記録感度でホログラムを多重記録することができました。これは従来、200℃程度の熱処理で一括初期化していたことに比べて、大きな改善になります。また記録完了後は結晶に光吸収がなくなるため、従来不要な光吸収によって発生していた情報の劣化がないという大きな特長も備えています。
二色ホログラム記録
また、鉄濃度が数ppm以下の結晶を用いて、紫外光照射によって記録領域形成後、ゲート光と呼ばれる可視光と赤外レーザ光の記録光を同時に照射して記録する二色ホログラム記録にも成功しました。二色ホログラム法で記録されたホログラムは、ゲート光が照射されない限りは消去されないため、記録に用いた赤外レーザ光を使って非破壊的に再生することが可能です。これにより、長年の課題であった破壊読み出しの問題が解決できました。 今回の実験では、鉄を2ppm、テルビウムを100ppm添加した単結晶に、波長313nmの紫外光を照射した後、可視光のゲート光(波長365nm ~ 532nm)を照射しながら波長850nmの赤外レーザ光でホログラムを記録しました。記録時と同じ強度の参照光による500万回相当の連続再生動作後でも、再生による劣化は生じませんでした。
2 ) 記録再生システム
今回開発した記録再生機は12 x 30 x 12 cm(縦x横x高さ)、使用した結晶はカード型メディアを想定した10 x 20 x 5mm(縦x横x厚さ)です。記録再生は、313nmの紫外光で直径約3mmの記録領域を形成し、この領域に波長532nmのレーザ光で記録光と参照光の角度を変えながら角度多重記録しました。さらに3mm間隔で記録領域を結晶面内に配置して容量を確保する方式で行いました。 記録した情報は、Windows AVI形式の再生時間約1秒間のディジタル動画ファイルです。このファイルは容量24.6Kbyteごとにページ画像に変換し、ホログラム多重記録した後、再生してコンピュータ内でAVIファイルに復元しました。再生データのエラー率は実用上問題のない10のマイナス5乗台でした。
今後、材料の高感度化、高密度化による記憶容量の増大を図り、テラバイト級の情報ストレージの実現をめざします。
開発の歴史
体積ホログラムに情報を保存するという三次元ストレージの概念は1963年、Polaroid社のHeerdenによって提案されました。その後Bell研やThomson-CSFなどで精力的な研究が行われ、1970年代半ばに第一次の技術の確立期を迎えました。その後、磁気記録、光記録の台頭により研究が一時衰退しましたが、1990年代に入り、ホログラフィックメモリはディジタル技術と融合し、汎用入出力に対応したディジタルホログラフィックメモリシステムとして期待されるようになりました。特に米国で国防総省国防高等研究計画局(DARPA)の支援による二つのコンソーシアム(HDSSとPRISM)が活動を開始して研究が一気に再加熱しました。 近年、ホログラフィックメモリシステムを構成するために必要な、二次元画像入出力デバイスなどの周辺デバイスの高性能化が進んだことに加え、マルチメディア時代に入り膨大なデータを瞬時に扱うために、高速の大容量メモリに対する要請が増加したこと、さらに従来のディスク型メディアに理論的な限界が指摘されるようになったことなどが背景となり、次世代ストレージとしての新たな可能性に期待が高まっています。
ホログラフィックメモリの課題
しかしながら、現在のところ市販できるようなレベルの完全なシステムは実現できていません。その最大の理由に、すべての条件を満足する記録材料が見出されていない点が上げられます。記録材料としては、記録と再生が繰り返し行えるタイプの鉄添加ニオブ酸リチウム単結晶が30年以上にわたり、常にもっとも有力な候補の一つでありましたが、実用的なレベルの性能は得られず、米国の二つのコンソーシアムは、ライトワンスタイプのフォトポリマを採用するに至っています。有力な材料の開発がホログラムメモリ実用化のキーになっているといって過言ではありません。 従来から用いられている、鉄添加ニオブ酸リチウムの問題点は、再生劣化(再生を続けるに従い徐々に情報が劣化する問題=破壊読み出しとも呼ばれる)、光による外乱(記録時あるいは再生時に不必要に光を吸収し、再生光にひずみを生じる問題)、熱処理に伴い導電率が上昇してストレージ寿命が短くなるなどの問題点を抱えていました。また本質的に記録感度が低く、高感度化は基本的な課題として存在します。
将来展望
現在はまだ研究開発段階ですが、将来は二次元ページ単位での高速読み出しを活かしたテラバイト級の光カードなどへの応用が考えられます。また連想記録といったホログラフィックメモリ特有のデータ検索機能を備えた、ユニークなシステム応用も夢ではありません。今後、ネットワークを核にしたIT時代の中で、ホームサーバ、超大容量ビデオサーバ、ビデオアーカイバルメモリなどに用いる高速大容量ストレージが必須になります。高速回転機構やサーボ機構のない、ホログラフィックメモリとしての特徴を生かしたストレ−ジの実現が期待されています。
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