Vol. 13 ウイーンで会った浜本さん(ピアニスト)

ピアノの響きのこと

ウイーンへ、ある国際会議へプレゼンテーションに行きました。
発表前夜、通訳のアルバイトに来てくれた浜本さん(ウイーン在住のピアニスト)と、
英語の発音の話から、れいによって「音の話」に....。
(ニシ)

いま、東京で英会話学校通っているんだけど、発音時に鼻のあたりの震え方の違いを実感するように、という指導を受けているんです。
浜本:それは、いい先生ですね。:-)
以前、モンゴルに行った時ね。滞在したゲルキャンプに、ホーミーの名人がいて。世界公演で回っているような人で。その人が教えてくれたことにも、少し近いんですよね。
浜本:ホーミー?
ダブルボイス、倍音唱法です。「うみょー」って低い唸り声を出しながら、それともうひとつ別に、高い旋律を同じノドから出す唱法。その人が言うにはね、こう小皿を鼻の前にかざしながら、「うみょー」って音出しつつ、自分の音が、鼻の奥で心地よく反響する場所を探すんですって。
浜本:ああ、なんかわかる気がします。
気持ちいい場所が見つかったら、小皿の位置を固定して、あとは延々、気持ちがいい限りつづければ上手くなるって。で、英語の先生も、英語の発音特有の振動が快感になってくると、英語が上手になるって言うんですよ。
浜本:私はピアノに、それを感じますね。
(飯野賢治さんもそう言っていたなと思いつつ)浜本さんは、他にどんな楽器をやるんですか?
浜本:バイオリン。
へーっ。バイオリンの方が、響きの快感は強そうじゃないですか。共鳴している楽器を首で挟んで。中耳や顎のすごく複雑な骨から、骨導音として、全身に音が入ってくるわけですよね。
浜本:いや、そんなに気持ちよくないですよ。だって、不自然な身体の使い方だし、ねじれているし。
音チェロとかどうだろう。姿勢いいし。あれも、弾いている本人がいちばん最初の観客みたいな、すごく気持ちよさげな楽器ですよね。
浜本:いや、いちばん快感の強い楽器は、やはり声楽じゃないかしら。自分の出す音が、口じゃなくて、頭のてっぺんから飛び出ていく時の快感は、一度味わうと、なかなか越えるものがないですよ。
ピアノは、やはりグランドピアノじゃないとダメなんですか?
浜本:アップライトは、鍵盤と連動するキーの向きが、グランドピアノと90度違っているから、音を鳴らした後、キーが降りるまでのタイムラグが長いんです。アップライトは、全然弾き具合が違うんです。
ピアノの響きを指先で感じながら、次に鳴らす音のイメージを探すようにして、弾いていくんですか?
浜本:うーん。そうですね。
たとえば、「音でなく響きを捉えなさい」っていう指導を受けたりするんですか?
浜本:いや、そういう指導は特にないんです。私は、一度行き詰まってしまって、そこでいろいろと模索した時に、「響き」にたどり着いたんです。
行き詰まった....。
浜本:指導教官に「あなたの音楽は美しくない」ってコメントされたことがあって。譜面は弾けていても、音楽が美しくない。それですごく悩んだんです。 で、音の「響き」そのものの美しさがないと、だめないんじゃないかって思うに至って。すごく試行錯誤をしたんです。ピアノの上に手を載せて、鍵盤を少しづつ鳴らしながら、美しい響きの音を探す。
すごいな。自分で発見したんですか。
浜本:それだけ、切羽詰まっていたんです(^_^:)。だから、ピアノを弾き始める前には、必ず音を少しづつ鳴らしていって、それを手のひらで感じて。自分の「響き」が出せた時から、曲を弾き始めるようにするんです。その響きが出るのに、すごく時間のかかる日もあるし、出せない日もあるんです。(おわり)

Naoko Hamamoto

出張先のウイーンで出会ったピアニスト。