#07 カナダ・ハンソン島編 サウンドバムガイド

ジョンストン海峡・ハンソン島(Canada)

バンクーバー北部、ブリティッシュ・コロンビア地域の海峡のひとつ。
複数のオルカの家族が、毎夏過ごしに集まることから、研究・観察のフィールドとしても有名。

アクセス

空路
  • バンクーバー → キャンベルリバー(飛行機 45分)
陸路
  • キャンベル・リバー → テレグラフ・コーブ(車 約5時間)
海路
  • テレグラフ・コーブ → ハンソン島(船 約30分)

※日本からバンクーバーまでの飛行時間は約9時間

宿泊

一般の宿泊施設はない。オルカラボのゲストハウスに泊まりたい場合は、個人的なツテからスポング博士本人にコンタクトするか、 あるいはメープルツアーが主催する Moter Earth Tour に参加するのが良いだろう。サウンドバムでも毎夏のツアーを計画中。

気候

冬の間は雨が多いが、夏は良好。気温は20度を少し超える程度。オルカの家族が戻ってくるのは毎年6月頃。11月頃までジョンストン海峡付近で過ごし、またどこかへ行ってしまう。鳥は春先(3月頃)から鳴き始める。

サウンドバム

オルカラボには、スポング博士が長い年月をかけて構築してきた水中マイクのネットワークがあり、同海域数カ所に点在するマイクを通じた海中のリアルタイムな音が、ラボの机上の小さなミキサーに流れ込んでいる。その音は、別棟の母屋や、ゲストハウスの中、ラボの裏の木立の中へも、小さなスピーカーを介し、一帯の通奏音として共有されている。 島には鳥も多く、針葉樹の森なりに音世界も豊か。

西村佳哲とサウンドデザイナー・岡田晴夫による
オルカバム・ハンソン島編 
サウンドバム・ガイド対談

西村 オルカラボは、サウンドバムの旅先として....。
岡田 最高でしたね。本当に。

西村 人の暮らしがありながら、自然が刻んでいる時間がそのまま流れている場所だなあ、と思いました。
岡田 ベストシーズンは僕らが訪れた8月頃。波も静か。しかし、オルカも去ってボランティアのスタッフも引き上げて、スポング博士の家族以外は誰もいなくなる冬の季節に、あのゲストハウスの暖炉で薪をくべてゆっくり過ごせたら....、と思いますね。

西村 どんな音が印象的でしたか?
岡田 むろんオルカの声。鳴き方がすごく多彩で、本当に会話をしている感じ。
西村 ラボのスタッフの何人かは、鳴き声だけでどのオルカの家族か分かるんですよ。あれは素敵ですね。
岡田 聞き分けできたら、すごく楽しいでしょうね。

西村 オルカ以外の音もよく聴きました。
岡田 そうそう船の音。大型客船からコンテナ船、小さなボートまで。ひっきりなしではないけど、朝から晩まで沢山のモーター音が海峡を通過しています。水の中は遠くまで音が聴こえるから、録音する側としては辛い。つい200~300年くらい前まではあんな音もなく、海の中には生物の声だけが響いていたんだろうな....と思うと、オルカたちにも申し訳ない気になってしまう。

西村 水中マイクを沈めて聴いてましたね。
岡田 ラボのマイクからも音は聴こえていて、ライン出力を分けてもらえればそのまま録音できるんだけど、やはり自分のマイクでも録らないとね。
西村 聴こえてきた音は、どうでした?
岡田 イルカや鯨の声を待ち続けるのは、幾度も経験しているけど、はじめて声が耳に入ってくる瞬間は胸があつくなるんですよ。夜、波打ち際に座って、マイク越しに彼らの声を聴いていると、海面上のオルカを目で見るよりもさらに活き活きと、悠然とおよぐ姿がイメージできます。

西村 宿でもないのに、ホスピタリティでしたね。いや宿じゃなくて、半ば個人的なゲストとして寄せていただくから、ああなんですよね。
岡田 おくさんのヘレナさんによる助けも多いと思うけど、電気もガスも船着き場もない海峡の孤島、マーケットのある近くの島まではモータボートで1時間以上。かなり覚悟のいる状況を想像して行ったけど、滞在中の心地よさは、そうした不便さを全く感じさせないものでしたね。
西村 心のこもったもてなしは、染みました。
岡田 屋外の共同トイレにも、小さな一輪挿しが活けてあって。自然の中に、申し訳ていどの囲いを立てて作られたトイレは、慣れてくると開放的で実に気分がいいですねえ(笑)。バム#02の、バハ半島の砂丘のトイレを思い出した。

西村 オルカ以外の音は?
岡田 奥深い針葉樹の原生林も、素晴らしかった。時間があればもっと....。
西村 あったじゃないですか、時間。
岡田 いや、さらにもっとあれば、森の中を歩き回りたかったですね。ワタリガラス、ブルージェイ、フクロウ、リスなど、様々な声が聞こえていた。
西村 島にはもう一人、山の上の方にデビッド・ギャーリックさんという方が住んで、キャンプを開いているんですよね。彼はハンソン島のCMT(先住民が使用した痕跡の残る針葉樹)を調査し、企業による伐採計画を中止に追い込んだ人物で、島の自然を人々に伝えるための手作り野外ミュージアムのようなものをひらいていた。僕はたまたまそこへ行く機会があったのだけど、森の中の道は苔むして厚い絨毯が敷き詰められたようで、長い時間の積み重ねを感じました。
岡田 また来年、バムのツアーでうかがいたい場所ですね。音を通じて、地球が刻んでいる時間が感じられる、素晴らしい場所の一つだと思います。

(今回のバムは、オルカライブの上田壮一さんの協力を得て実現しました。あらためて感謝します)

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