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課題CD

全クラス共通

■ダイアン・リーヴス/ビューティフル・ライフ

審査トラック:Track 2/フィールス・ソー・グッド

▼コメント

超優秀録音です。音楽を構成するすべての要素で解像度がきわめて高く「立っている」。この音の屹立状態をどう再現するかが重要です。

冒頭のスネア(リム)の一打、ギター、バスドラムのコンボの再現で、その装置の力が分かります。それら要素のバランス、そして次に入るヴォーカルとのバランスが大事です。

常に刻まれるスネアが、他の音が厚くなっても常に立つこと。しかも冒頭の一打は明確にファントムセンターしていますが、次の一打は左右チャンネルから出ます。奥行き位置も変わります。その後ヴォーカルが入ると固定します。この微細な仕掛けが分かるようにしてほしいと思います。

冒頭の低音部はバスドラムだけですが、ヴォーカルが入るとそれにベースが加わります。その後二つの楽器は同じリズムを刻みますが、「バスドラムのみ」と「バスドラムとベース」の違いが音としてきちんと描き分けられていること、そしてベースの解像感、量感、そして音階感も大切です。途中でピアノとシンセが加わりますが、それらがきちんとプレイしていることも大事です。

音数が増えても高解像度は変わらないこと。バックコーラスとメインヴォーカルのバランスをどう取るか、ダイアン・リーヴスのソウルフルな、そして多彩なニュアンスの表情をどう再現し、その「限りない深さ」をどう表現するかもポイントです。歌が進むとより深みを増します。できればダイアン・リーヴスの他の作品も聴いて研究して欲しいと思います。特に表現性と粒立ち感が大切です。

全クラス共通

■ピアノ:ユジャ・ワン / 指揮:グスターヴォ・ドゥダメル
シモン・ボリバル交響楽団
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番

審査トラック:Track 7/プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第2番 第4楽章

▼コメント

2013年2月、南米ベネズエラ・カラカスでのライブ録音です。ベネズエラには「エル・システマ」という音楽プログラムがあって、現在35万人以上の青少年が参加しています。その多くが貧困層の出身で、政府の支援によって無償で楽器の提供と音楽指導が受けられます。

グスターヴォ・ドゥダメルは、このプログラムによって育成され、その才能を開花させました。次代のベルリン・フィルを率いるのは彼ではないかと言われるくらい、いま世界が注目し期待する指揮者の一人です。シモン・ボリバル響もエル・システマの出身者で構成されている若いオーケストラで、少々の粗さはあるものの、その若々しくエネルギッシュな演奏で聴衆を魅了しています。

ピアノを弾くユジャ・ワンは1987年の北京生まれ。鍵盤のアスリートと言われるほど圧倒的なテクニックの持ち主で、彼女の指が持つ驚異的な運動性能と、そこから繰り出される高速連打の迫力には凄まじいものがあります。彼女にとってプロコフィエフはもっとも得意とするレパートリーでしょう。

ピアノ協奏曲第2番は、1913年プロコフィエフがまだサンクトペテルブルク音楽院に在籍している22歳の頃に書かれた作品です。ところが1917年にロシア革命が起こり、その混乱の中で楽譜が失われてしまいました。それから約10年後の1923年、彼は記憶を辿ってスコアを復元・改訂し、それが現在演奏されるピアノ協奏曲第2番です。初演版に比べると穏健になったと言われますが、それでもダイナミックで野趣溢れる音楽はまさにプロコフィエフの真骨頂です。

課題曲となる第4楽章フィナーレでは、ピアノが打楽器的に扱われ、その奔放さはユジャ・ワンの演奏スタイルにピッタリです。猛烈なスピード感としなやかに跳ねるような野生的リズム、さらに叙情性を湛えた音楽性が高度に融合し、みごとな演奏になっています。

冒頭は、ピアノと木管、ヴァイオリンとヴィオラが絡み合って疾走…その聴き手に挑みかかるような勢いをどう表現するか、中高域の解像度が肝となります。反射や不要な鳴きなど、音を濁らせる要素を極力排除して、音像がダンゴ状態にならないこと。ピアノやヴァイオリンが先鋭でありながら同時に歪っぽくならないこと。低弦を加えた激しい合奏が入ってきたとき、高音部と中低域がスムーズにつながり、明瞭なステレオ音場が出来ること。そのためにも各ユニットの位相をていねいに合わせてください。

ピアノの強音と弱音、高低の跳躍…このときの音色、音像位置が不自然にならないこと。オーケストラの全合奏に、グランカッサ(大太鼓)の連打とチューバの唸るような鳴りも加わりますが、このフォルテッシモをストレスなく鳴らしてほしい。注意したいのはグランカッサを必要以上に膨らませるなどオーバーアクションにしないこと。低域を素直に伸ばすことで質感を表現したいのですが、低域を盛り上げて鈍く不明瞭にはしてほしくないのです。そのために6トラックの冒頭をはじめとした他の楽章でもチェックしましょう。低域が盛り上がったり、定在波で不明瞭になっていたりすると、多分アンバランスになるはずです。大音量の中にも微かな音がたくさん聴こえます。

開始から1分過ぎ。それまでの喧騒が嘘のように静かになります。ファゴット、ピアノ、チェロが弱音で掛け合いながら、表情豊かに奏でます。このピュアで鮮やかなコントラスト感と空気感、ワイルドでありながら繊細さを失わない…そんなすばらしい表現を期待します。