2024年 5月 30日
カーボンニュートラル
仮想発電所と称される「VPP」とは、地域やエリア内の小規模な発電システムを統合・制御させ、一つの大きな発電システムとして扱う仕組みのことです。本記事では、VPPの概要や注目される背景、導入によるメリットなどを中心に詳しくご紹介します。
仮想発電所と称される「VPP(Virtual Power Plant)」とは、地域やエリア内の小規模な発電システムを統合・制御させ、一つの大きな発電所のように制御する仕組みのことです。
従来の大規模発電所から各地へ電力を送信する方法と比べて、VPPは災害時のリスクを抑えられたり、運用コストを低下させたりできる点が魅力として挙げられます。
本記事では、VPPについての概要や注目を集めている背景、導入によるメリットなどを中心に詳しくご紹介します。併せて、VPPに関わる重要な要素である「分散型エネルギーリソース」「デマンドレスポンス」「アグリゲーター」ついても解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
VPP(Virtual Power Plant)とは、太陽光発電や蓄電池など、街中に点在する小さなエネルギー源を、ICT(情報通信技術)でつなぎ、あたかも一つの大きな発電所のように制御する革新的な仕組みのことです。VPPでは、家庭の太陽光パネル、企業の蓄電池、さらには電気自動車など、さまざまなエネルギー源をまとめて制御することで、電力の安定供給を目指します。
地域やエリア一帯を一つの大きな発電所のように扱っていることから「仮想発電所」と称されています。それぞれのエネルギー源は小規模な設備・機能ですが、複数のシステムをまとめて制御できる方法の確立により、大規模な発電システムに見立ててまとめて制御が可能です。
従来の電力システムは、火力発電所や水力発電所、原子力発電所などの大規模発電所で発電した電力を、送電線を通じて各家庭や施設に送るという仕組みでした。
一方で点在する小規模な発電システムを監視・操作し、地域全体で電気をシェアする方式がVPPです。
VPPを活用することで、余ってしまった電気は足りない設備に回したり蓄電したりと、効率よく電気を使えるようになります。地域やエリア内の発電量・需要量などを管理できることから、電力を効率的に活用する手法として近年注目を集めています。
VPPの仕組みやメリットを理解するにあたって、いくつかの重要なキーワードを押さえておく必要があります。VPPに関わるキーワードとして、以下の3つをご紹介します。
DER(Distributed Energy Resources)は、直訳で「分散型エネルギーリソース」を意味します。さまざまな場所にある発電機器や蓄電設備を総称して指す言葉です。DERの例として、以下が挙げられます。
一般的に需要者(電気の利用者)が所有するエネルギー源が、DERに該当します。DERは、それぞれが独立してエネルギーを生成したり、生成したエネルギーを蓄積できたりするのが特徴です。単体でも発電・蓄電の役割を果たせるDERですが、VPPによってより効率的な運用が可能です。
VPPを維持するためには、供給量(発電量)と需要量(消費電力量)を同量に保つ必要があります。従来は、発電事業者が必要な電力量を予測し、供給量を調整していました。しかし再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されるため、必要な電気量の予測が困難です。
そこで重要となるのが、デマンドレスポンス(DR)です。DRでは、供給量を考慮して需要量を調整することで、電力需給のバランスを保ちます。
需要量を制御するパターンとして、需要を減らす「下げDR」と需要を増やす「上げDR」があります。 例えば、照明や空調機器の利用を止めて電気の使用量を抑える取り組みが下げDR、蓄電施設や電気自動車などに充電して電気の需要を増やすのが上げDRです。
アグリゲーターとは、VPPやDRにおける電力システムの操作や管理、各種業者との取引などを行う専門事業者を指す言葉です。VPPにおけるアグリゲーターは、「リソースアグリゲーター」と「アグリゲーションコーディネーター」に分けられます。
リソースアグリゲーターは、各所で発電した電力(リソース)を管理・コントロールする役割を担っています。リソースアグリゲーターが制御・統合した電力を集約し、一般の電気事業者と取引を行うのがアグリゲーションコーディネーターです。
一つの事業者が、リソースアグリゲーターとアグリゲーションコーディネーターを兼務するケースもあります。2つのアグリゲーターが連携し合い、電力の需要・供給のバランスを調節することにより、VPPの適切な運用が実現します。
近年、VPPへの注目が高まっています。VPPが注目される背景には、以下の4つの理由があります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
従来の電力システムは、大規模な発電所で発電し、送電網を通じて各家庭や施設に電力を供給するという方法です。この仕組みでは、震災発生時に発電所や送電網が被害を受けると、広範囲で停電が発生するリスクがあります。特に近年では集中豪雨や地震などの自然災害が頻発しており、従来の電力システムの脆弱性を指摘されることが増えています。停電リスクを分散するために、近年注目されているのがVPPです。
地球温暖化対策には、再生可能エネルギーの活用が不可欠です。太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーは、CO2を排出しない持続可能なエネルギー源として期待されています。
しかし再生可能エネルギーは天候に左右されるため、発電量が不安定という課題があります。これまではこの不安定さを補うため、従来の大規模発電システムに頼らざるを得ませんでした。
VPPを活用すれば、地域内に分散された太陽光パネルや蓄電池などの小規模な発電設備をまとめて制御できるようになります。電力が不足している場所に余剰電力を回すといった対応も可能となるので、天候にも左右されにくい、より安定した電力供給が可能です。将来的にはVPPによって再生可能エネルギーの普及が進み、CO2排出量の削減が実現される可能性も期待されています。
VPPの注目度が高まっている背景には、2016年に実施された「電力小売事業の自由化」も大きな要因とされています。
従来、電力販売は電力会社など、一般電気事業者のみが行う独占体制でした。しかし電力自由化によって、あらゆる業種の企業が電力販売に参入できるようになりました。
電力自由化によりさまざまな企業がVPPに参入することで、電力販売サービスの多様化や電気料金の低下、新たなサービスの開発などが期待されています。
IT技術の進化により、近年では「IoT(Internet of Things)」という仕組みが普及しつつあります。IoTとは、身の回りのあらゆるものがインターネットに接続され、相互に管理・制御する仕組みのことです。
各所にある小規模の発電システムを統括するVPPには、設備や機器ごとに遠隔で操作や管理をする技術が欠かせません。複数の発電施設や設備から生まれる電源をコントロールする仕組みを可能とするIoTの発展は、VPPの実現を可能とした一つの要素です。
VPP導入によって期待できるメリットとして、主に以下の4つがあります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
VPP導入により、複数の発電システムから生まれた電力を一括制御できるようになると、再生可能エネルギーを普及させる仕組みが構築しやすくなります。
先述のとおり、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、気象環境によって発電量が変動するため、電力が不足したり余剰電力が生まれたりする点が課題でした。
VPPを導入すれば、再生可能エネルギーの不足時には他の発電所から供給を受け、余剰電力は別の場所で利用することも可能です。VPPを活用することで、従来の電力システムでは課題とされてきた、再生可能エネルギーの信頼性や利便性を高められます。
災害が起きた際の停電リスクを軽減できる点も、VPPのメリットです。従来の電力システムは大規模発電所に電力の供給を依存していました。そのため大規模発電所が被災すると、広範囲で停電が発生し、復旧までに時間がかかるという課題がありました。
VPPを導入すると発電施設を分散できるため、一箇所の設備が被害を受けたとしても別の設備からの電力供給が可能となり、停電のリスクを抑えられます。小規模な発電施設であれば、被災をしても大規模な発電施設に比べて復旧するまでの時間が早くなる可能性がある点もVPPの魅力です。
VPPは災害に強い電力システムとして、広く普及していくことが期待されています。
VPPは従来の大規模な発電所とは異なり、低コストでの運営が可能です。従来の電力システムでは、大規模な発電所を建設・運用するために膨大なコストがかかっていました。
一方、VPPは既存の電力送配電網を利用しながら、需要家が設置した地域内の小規模発電設備をまとめて制御する形をとるため、運営コストを抑えられるといったメリットがあります。
VPPの導入は、電力需要の平準化の実現にも貢献できます。
電力需要の平準化とは、季節や時間帯による電力需要の変化を是正するための取り組みのことを指します。従来の電力システムでは、需要が大きくなるピ―ク時間に合わせて電力を供給する方式で管理を行っていました。この仕組みの場合、需要が少ない時間帯であっても設備の維持・運営をする必要があるため、余分なコストがかかる点が課題となります。
一方、VPPを導入すれば、電力需要・供給の細かいバランス調整が可能となります。例えば、発電設備の供給に余剰がある場合は、余った電力を設備の蓄電池や電気自動車へ充電できます。 一方で、電力の需要がひっ迫する可能性がある場合は、発電設備の蓄電池や電気自動車からの電力をシェアしたり、空調・照明・生産設備などの稼働を減らしたりすることで需要を調整します。このような電力のコントロールにより、柔軟で効率的な電力需要の平準化を実現できるでしょう。
VPPは補助金制度を活用することで、導入費用を抑えられる可能性があります。
2024年2月時点では公募は終了していますが、「一般社団法人環境共創イニシアチブ」が実施する、実証実験への参加により補助金を受けられる制度がありました※。この補助金制度は、VPP導入にかかる補助対象経費の2分の1の金額が補助されるというものです。補助対象経費には、蓄電池や発電システムの購入費用の他、導入工事費、制御装置などにかかるコストなどが含まれていました。
国もDERを活用した新たなビジネスモデル構築を推進している ことから、VPPに関する補助金制度は、今後新しく公募される可能性もあります。VPPの導入を検討している方は適宜確認しておきましょう。
※参照:一般社団法人 環境共創イニシアチブ「令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業 公募情報」
令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業 公募情報
VPPとは、地域内に分散した太陽光パネルや電気自動車、蓄電池などの小規模なエネルギー設備をまとめて制御する仕組みのことです。小規模な電力設備をまとめて管理することで、電力の需要と供給を細かくコントロールすることができます。
またVPPには、震災時の停電リスクの低下や、再生可能エネルギーの利便性の向上、電力需給バランス調整の低コスト化など、さまざまなメリットがあります。従来の大規模発電システムの課題を解決できる重要な取り組みとして、今後の普及が期待されています。