2024年 5月 30日
カーボンニュートラル
V2Xとは、通信で自動車とさまざまなものをつなげて連携を行う技術のことです。V2Xは、運転者へのサポートや自動運転システムの発展に重要な役割を果たすものであり、今後の普及が期待されています。本記事では、V2Xについての概要や構成する4つの要素、実現に向けた課題などを中心にご紹介します。
「Vehicle to Everything」の略称であるV2Xとは、自動車とさまざまなものを通信によってつなぎ、情報共有や連携を行う技術のことです。V2Xは、運転者へのサポートや車の自動運転システムの開発に欠かせない要素であり、今後の普及が期待されています。
V2Xの構成は主に「V2V」「V2I」「V2P」「V2N」の4つに分かれておりますが、それぞれの接続先や役割、機能などについて詳しく把握していない方もいるでしょう。本記事では、V2Xの概要や4つの要素、メリット、そして実現に向けた課題などについてご紹介します。
V2Xとは「Vehicle to Everything」の略称で、自動車とさまざまなものや機器を通信で接続し、相互に連携する技術のことです。
自動車と接続可能なものには、歩行者や交通インフラなど、さまざまなものが含まれます。例えば、目視で確認が難しい死角にいる歩行者を感知して車のスピードを緩めることや、交通情報をリアルタイムで受信することなどが可能です。自動車の走行に関する利便性や安全性を向上できます。
またV2Xは自動運転技術の実現だけでなく、交通渋滞の緩和や環境保護の促進など、さまざまな分野での活用が期待されており、実用化に向けた取り組みが活発に進められています。
V2Xと似たキーワードとして「V2H」が挙げられますが、直接的な関係性はありません。V2Hは「Vehicle to Home」の意味を持ち、自動車と住宅を通信機器を用いて接続する技術を指す言葉です。
主に電気自動車のバッテリーに貯蓄された電力を、家庭で利用する際に使用されます。具体的にはV2Hを導入すると、災害時や停電時でも電気自動車に蓄えられた電力を使って、家庭内の冷蔵庫や電子レンジなどの家電機器を使えるようになる点が特徴です。
V2Xは、自動車の接続先に応じて、主に以下の4つに分類できます。
ここからはそれぞれの特徴や機能などについて、詳しくご紹介します。
V2Vとは「Vehicle to Vehicle」の略称で、複数の自動車間で通信を行う技術のことです。車両と車両をつなぐことで、車間距離の計測や走行に支障のある障害物の検出、交通情報の共有などが実現します。自動車メーカーでは、V2V技術が組み込まれた運転支援システムの開発が進められています。
運転支援システムでは、運転者の目視では確認できない、もしくは確認しづらい情報を感知できるため、前方車両の急ブレーキ情報や後方の危険な追い越し車両、緊急車両の接近などを素早く認識できます。V2Vの実現で、運転効率の向上や安全性の確保、交通網の滞りの緩和といった点が期待できるメリットです。ただしV2Vの効果を発揮するためには、自車両と相手車両がともにV2Vに対応している必要があるため、現時点での実用化数は限られています。
V2Iとは「Vehicle to Infrastructure」の略称で、自動車両とインフラ設備で通信を行う技術のことを指します。通信先となるインフラ設備は、主に信号機や監視カメラなどです。V2Iの具体例として、走行している道路の信号情報や待ち時間が分かるだけでなく、道路に設置された監視カメラを利用して死角にいる歩行者や自動車の情報を把握できるようになります。
V2Vと同様、自動車メーカーではV2I技術が組み込まれた運転支援システムの開発が積極的に行われています。なお、V2Iの普及には大規模なインフラ整備が必要です。
V2Pとは「Vehicle to Pedestrian」の略称で、自動車と歩行者で通信を行う技術のことを指します。主に歩行者が所持しているスマートフォンやスマートウォッチなどのデバイスに搭載されたGPSを介して、自動車と情報共有が可能です。
V2Pの実現により、横断歩道を移動している歩行者を検知して、自動車にアラートを送り、自動で走行を停止できるようになることが期待されています。
なおV2Pを実現し普及させるには、GPS精度の向上や導入コストの削減を目指す必要があります。
V2Nとは「Vehicle to Network」の略称で、自動車とさまざまなネットワーク機器で通信を行う技術のことを指します。V2Nが実現すれば、社内でリアルタイムな渋滞情報や気象情報、ルート案内機能の確認が可能となり、効率的な走行や、運転者の利便性向上に役立てられるでしょう。
海外では普及が進んでいるV2Nですが、日本国内では導入が遅れているため今後の発展が期待されています。
自動運転(自動走行)システムとは、自動車の運転に求められる認知・判断・操作などの行動を、機械が全自動で行う技術のことです。自動運転システムでは、車体に搭載されたGPSやカメラ、センサーなどの装置、通信を活用しながら、運転操作が制御されます。
自動運転システムの実用化は、V2Xの活用が必要といわれています。V2Xの構成要素を有効活用した例として、国内自動車メーカー大手と国内IT大手の共同研究による、高速合流時の自動運転支援システムが挙げられます。これは人工衛星から与えられた精度の高い位置情報(V2N)をクラウド上に集約した後、衝突予測を計算し、自動運転者同士の連携(V2V)と組み合わせて衝突しないように調整するシステムです。
なお、このシステムでは、通常時の合流だけでなく、渋滞時における本線への合流でも、V2NやV2Vをうまく連携させて自動運転車を合流させることに成功しています。
自動運転システムの実用化には、自動車本体のリソース状況だけでなく、近くの信号の情報、歩行者や周囲の自動車との位置関係など、複数の情報を統合的に取得・認知し、活用していく必要があります。近年、開発が進められている自動運転システムの発展にも、V2Xの進化が欠かせません。
V2Xが普及することで、期待できるメリットは主に以下3つです。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
V2X普及により、運転者へのサポートが充実し、人間の負担を軽減できます。例えば、運転中、死角にいる歩行者や横断歩道を渡ろうとする自転車をV2Xでいち早く検知できれば、スムーズにブレーキや回避などのアクションが可能です。危険情報の共有により、事故のリスクを軽減できたり運転手や歩行者の安全性が高まったりするでしょう。
渋滞の発生率を下げられる点も、V2Xのメリットの一つです。車両間やインフラ設備との通信により、リアルタイムの渋滞情報を認識できるため、交通量が少ないルートを活用するといった対策を事前に練れるようになります。交通量の分散につながれば、渋滞の緩和につながるでしょう。交通の流れを最適化できれば、移動時間を短縮でき燃料の消費量や排出ガスの削減、運転手の負担軽減なども期待できます。
V2X技術の普及は、環境保護にもつながります。周囲の車両や道路状況などを解析することによって、自動的に適切な運転を行えるようになるため、過剰なブレーキやアクセスを減らし、効率的な走行を可能にします。
不要な運転行動の削減により、自動車から排出される排気ガスが減り、空気汚染を防げるようになるでしょう。
またV2Xの発展は環境に優しい電気自動車やハイブリッド車の利用促進にも役立ち、環境保護につなげられるメリットがあります。例えば、電気自動車のバッテリーを家庭の電化製品に用いたり、充電スポットへの適切なルートを提供したりといった、 ユーザーの利便性向上につながる機能を提供できるようになるため、利用者の増加に貢献することができます。
V2Xの実現によってさまざまなメリットがありますが、課題もあるのが現状です。具体的には以下の通りです。
社会全体にV2Xを普及させるには、課題一つへの対策を行わなければなりません。詳細について見ていきましょう。
V2Xが普及するまでの課題の一つは、V2Xの規格が統一されていない点です。V2Xの開発において、主流とされる規格には「DSRC」と「C-V2X」があります。DSRCとC-V2Xは、開発時期や性能に違いがあり、両規格間での互換性がないのも難しい点の一つです。
つまり、DSRC規格に対応した自動車両ではC-V2Xを利用できず、反対にC-V2X規格に対応した自動車では、DSRCを利用できません。互換性のない規格の車両が存在し続けるとV2Xの普及は難しくなるため、通信規格の統一化は検討すべき課題の一つです。
車両間での通信ができる点が魅力の一つであるV2Xですが、効果を発揮するには相手の車両が同様にV2Xに対応していなくてはいけません。自身の車両にV2Xを搭載しても対応車両が少なくてV2Xの効果を発揮できなければ、消費者は機能の必要性に疑問を抱くようになります。
またV2Xの導入費用や、利用状況によって追加料金が生じるケースもあり、コスト面も普及の障壁として考えられます。V2Xの導入が広まる社会に向けて、対応車両をどのように普及させていくかは重要な課題です。
V2Xの普及に欠かせないのが、通信障害への対策です。通信機能に頼ることが前提となった際には、通信障害によって機能が停止すると大きなトラブルに発展する可能性があります。通信障害により歩行者を認知するセンサーが動作しなくなって事故を起こしたり、緊急車両への通報システムが働かなくなったりするかもしれません。
例えば、V2Xの通信規格の一つとして、先述したC-V2Xが挙げられますが、この規格では、通信を行うために4Gや5Gなどの標準的な携帯電話のネットワークを利用 しています。しかし、4Gや5Gなどのネットワークは過去に大規模な通信障害が幾度か発生している ため、将来的にV2Xが本格的に実用化される際にも同様の障害が起こらないとは言いきれません。
重大な事故や問題にならないように、どのように通信障害を減らしていくかが今後重要になってくるでしょう。
自動車をあらゆるものや機器と接続できる点がV2Xの特長ですが、その反面、セキュリティリスクにも気を付けなければなりません。ネットワークをハッキングされれば自動車の操作権が奪われ、遠隔操作やセンサーの誤認知など、重大な事故を引き起こす恐れもあります。V2Xが普及するには、徹底したセキュリティ対策・強化が求められるでしょう。
V2Xの発展・拡大にはインフラ整備が欠かせません。自動車と街の設備との情報通信をするためには、信号機や監視カメラなどのインフラ設備を、改めて整備する必要があります。
インフラ整備は大規模な工事となり、施工期間やコストの負担がかかるため、地域の財政状況によっては難しいケースもあるでしょう。
V2Xの導入・普及拡大には、国や地域ごとに周波数が異なる点を解決しなければなりません。周波数が違うと、無線やアンテナの規格が変わるため、正確な通信ができません。V2Xを導入しても、地域が変わると機能が対応しないといったトラブルも考えられます。V2X導入において、周波数の違いは検討すべき課題の一つです。
V2Xは、自動車とさまざまなものを通信接続する技術です。V2Xは主に「V2V」「V2I」「V2P」「V2N」の4つの種類に分けられ、それぞれ接続対象や役割が異なります。V2Xは今後の発展が期待される技術ですが、普及するまでにはいくつかの課題が存在します。
課題を解決しV2Xが普及すれば、自動車業界はさらに発展する他、私たちの生活も豊かになっていくでしょう。