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パリ協定とは?
合意までの経緯と概要、求められる取り組みを解説

2024年 5月 20日

カーボンニュートラル

パリ協定とは、2020年以降の気候変動問題に対する世界的な枠組みのことで、京都議定書の後継にあたります。途上国・先進国を問わず温暖化対策に取り組むことで承諾を得た歴史的合意の一つです。本記事では、合意までの経緯や求められる取り組みについて解説します。

2015年11月 ~12月、フランス・パリで開催されたCOP21で「パリ協定」が採択されました。パリ協定は2020年以降の環境問題に対する世界共通の枠組みであり、京都議定書の後継にあたるものです。

先進国・途上国問わず地球温暖化対策に取り組むことや、ボトムアップ型の目標設定をしたことから京都議定書の課題を克服し、世界各国の合意を得られました。またパリ協定では産業革命よりも前に比べ、世界の平均気温の上昇を2度より十分低く保つことを目指し、世界共通の長期目標を明確にした点も評価されています。一方で長期目標のハードルが高く、目標達成に法的拘束力がないため実現可能性が低い点が課題の一つです。

本記事では、パリ協定の概要と採択・合意までの経緯、定められた内容、各国の取り組みや実現する上での課題などについて解説します。

目次

パリ協定とは?

パリ協定とは、2020年以降の気候変動や環境問題などに対する世界的な枠組みのことです。2015年11月30日~12月13日 まで、フランス・パリで行われた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で各国の合意の上採択され、翌2016年に発効しました。

パリ協定には、以下の2つの条件の達成が必要でした。合意後すぐではなく、1年後に協定の効力が発生しているのはこのためです。

  • 55カ国以上が参加すること
  • 世界の温室効果ガス(CO2、メタン、一酸化炭素など)総排出量のうち55%以上をカバーする国が同意すること

当初、合意までには時間がかかると見られていたものの、世界各国の関心の高さから、2016年11月4日に効力の発生に至ります。結果として2017年8月時点では、159の国と地域が締結し、さらに世界の温室効果ガス排出量の約86%をカバーする合意となりました。

パリ協定採択までの経緯

パリ協定が採択される50年以上前から、世界では地球温暖化が問題となっていました。パリ協定採択までの歴史を以下にまとめます。

西暦 概要
1970年代 科学者の間で地球温暖化問題が注目されはじめる。
1985年 地球温暖化に関する初の世界会議「フィラハ会議」がオーストリアのフィラハで開催される。
1988年 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立される。
1990年 第2回世界気候会議で「気候変動枠組条約」の作成が決定される。
1992年5月 「気候変動枠組条約」が国連総会で採択される。
1994年3月 「気候変動枠組条約」が発効する。
1995年 「気候変動枠組条約」に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催される。
1997年12月 日本の京都で開催されたCOP3で「京都議定書」が採択される。
2005年2月 「京都議定書」が発効する。
2015年12月 フランス・パリで開催されたCOP21で「パリ協定」が採択される。
2016年11月 「パリ協定」が発効する。

以上のように、1970年代から地球温暖化の問題が指摘されはじめ、1985年には初めての世界会議が開催されています。以降、1995年には「気候変動枠組条約」に基づき毎年COPが開催され、COP3で「京都議定書」、COP21で「パリ協定」が採択されました。

なお、日本では環境大臣が毎年全てのCOPに出席しています。

京都議定書とは?

京都議定書とは、日本の京都で開催されたCOP3(通称、京都会議)で採択された、2020年までの気候変動や環境問題に対する世界的な条約です。

内容の概要としては、先進国(附属書I国)に対し、1990年と比較したCO2などの削減目標を課し、さらに目標の達成を義務化しています。

期間 各国の削減目標の例
第一約束期間(2008~2012年) 日本-6%、アメリカ-7%、EU-8%など
第二約束期間(2013~2020年) EU-20%など

なお、途上国(非附属書I国)に、温室効果ガスを削減する義務はありませんでした。

しかし達成の義務化が経済成長の阻害となる点や、先進国のみに義務を負わせる不平等感などを理由とし、2001年3月にアメリカが京都議定書の離脱を表明します。他にも、カナダやオーストラリアなども離脱を表明しています。また中国やインドのように温室効果ガスを大幅に排出していた国に義務が課せられていないことも、問題として挙げられました。

京都議定書では地球温暖化対策の必要性を世界が認識した点は大きな意義があるものの、多くの課題を残した条約となりました。

パリ協定と京都議定書の違い

京都議定書の課題を踏まえ、パリ協定では全ての締結国がCO2やメタン、一酸化炭素などの削減目標の提出を義務付けられています。一方で、目標の達成を義務としていない点が特徴です。パリ協定と京都議定書の違いを以下にまとめます。

内容 パリ協定 京都議定書
採択年 2015年 1997年
対象期間 2020年以降(5年ごとに見直し) 2008年~2020年
対象国 全締結国 先進国
義務 削減目標の策定・提出 削減目標の達成
目標の拘束力 なし あり

パリ協定は目標の達成が法的に義務付けられているわけではないため、温室効果ガスの削減効果には課題が残るとの意見もあります。しかし京都議定書の課題を踏まえ、アメリカや中国、インドのような温室効果ガスの一大排出国と途上国も巻き込み、行動を促せた意義は大きいと評価されています。

パリ協定で定められた内容の概要

パリ協定では世界全体で目指す長期目標を設定する、国が決定する貢献を5年ごとに提出するなど、さまざまな取り決めが行われました。ここでは、パリ協定で定められた内容の概要について見ていきましょう。

2度目標と1.5度努力目標

パリ協定では長期目標として、産業革命よりも前に比べ世界の平均気温の上昇を2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力目標が掲げられています。これらを実現する具体的な方法としてカーボンニュートラルにも言及されています。カーボンニュートラルとは、CO2などの排出量と吸収量を均衡させることです。

具体的な数値が定められた理由は、これ以上、地球温暖化が続く場合、地球環境全体に極めて深刻な影響が生じると予測されたためです。 なお、2度とされている理由は、1995年にドイツの地球環境変化に関する科学諮問委員会(WBGU)が、気候変動枠組条約(UNFCCC)の第1回締約国会議に発表した声明が起源とされています。同声明では人為的なCO2などの排出を超長期的にゼロにする必要があると明言されました。しかし具体的な数値が挙げられなかったため、WGBUは「許容温度範囲」という概念を作り、その許容可能な上限温度までの温度幅を求めています。ここから、2度目標の「2度」という数値 が決められました。

5年ごとに全参加国が削減目標を提出・更新する

温室効果ガスの削減目標は上意下達するのではなく、各参加国が設定をしています。これを「国が決定する貢献(NDC)」といい、各参加国は5年ごとに提出・更新する義務を負います。

京都議定書のように先進国・途上国の区別なく、全ての締結国で対応が必要です。なお、義務はあくまでも目標の提出と更新であり、達成の義務はありません。ただし、削減目標は従前よりも踏み込んだものを設定しなければなりません。さらに目標は設定するだけでなく、第三者による達成状況の評価を定期的に受けることも必要です。これにより、目標達成への責任を促しています。

「グローバル・ストックテイク(GST)」も取り入れられています。GSTとは、それぞれの国の目標の取り組みや進捗状況を評価する仕組みです。ストックテイクは「実績評価」を意味します。情報収集と準備・技術的評価・成果物の検討の3ステップで評価を進め、最初のGSTは、2023年11月のCOP28で行われました 。

GSTが芳しくないと各国で認識が共有されれば、NDCを引き上げる必要があります。また各国の進捗状況から、今後の地球規模の取り組み指針を立てる上でも役立ちます。

先進国の途上国支援

先進国の途上国への資金援助は以前から盛り込まれていたものの、パリ協定では新たに「途上国も自主的に資金援助をする」ことが追加されました。支払い能力のある新興国にも負担を求めることで、より公平感のあるルールとなっています。

先進国の途上国支援は主に緑の気候基金(GCF)と呼ばれる国際ファンドにより行われ、発展途上国の温室効果ガスの抑制や削減、気候変動による影響への対処を後押ししています。なお、GCFは一方的に資金を配付する仕組みではありません。途上国自身が気候変動政策などのプロジェクトを立案し、GCF事務局が申請内容を確認した上で、融資や出資が行われる仕組みです。

技術革新と新たな価値の創出

温室効果ガスの削減にはイノベーションが重要であることも、パリ協定の議題に上りました。イノベーションとは、技術革新やそれによる新たな価値の創出のことです。パリ協定の長期目標を達成する程度の温室効果ガスの削減には、イノベーションが不可欠だとされています。

例えば、温室効果ガスは石炭や石油などの化石燃料を燃やすことで発生します。現在の日本では天然ガスや石炭により主に電気を作っているため、エネルギーを作る過程で大量の温室効果ガスの発生を避けられません。しかしイノベーションによって家庭用・業務用双方の電力を再生可能エネルギーで賄えれば、温室効果ガスの大幅な削減が可能です。

市場メカニズムの有効利用

市場メカニズムとは、価格をつけることで需要と供給を均衡させる仕組みのことです。例えば供給量が限られている商品であっても、指標となる価格があることで需要と供給を効率化できます。

温室効果ガスに市場メカニズムを活用した例が、二国間クレジット制度(JCM)です。JCMは、温室効果ガスの排出量や吸収量に応じ「クレジット」を発行し、二国間で分け合う仕組みです。具体的には、先進国が発展途上国に脱炭素技術などを提供し、温室効果ガスが減った分がクレジットとなります。先進国は削減分のクレジットを途上国から受け取り、自国の削減目標にカウントが可能です。双方にメリットが生まれ、世界全体の温室効果ガス削減にも貢献できる仕組みです。

パリ協定が画期的とされる2つの理由

パリ協定では初めて、国を問わずにC悪化する気候変動問題に対する取り組みが合意されました。歴史的に見ても重要性が高く、画期的な協定として評価されています。ここからはその理由について解説します。

全ての参加国に排出削減努力を求めたため

パリ協定では京都議定書の課題を活かし、協定を締約した195 の全ての国に対しCO2などの削減努力を求めています。目標に法的義務を設けないことで参加のハードルを下げ、結果として京都議定書では批准しなかったアメリカの参加も促せました。

また温室効果ガスの二大排出国、アメリカと中国が参加したことで、それまで後ろ向きだった途上国も参加の意向に傾きました。結果として多くの国の合意を得られたことが、画期的と評価される理由の一つです。

ボトムアップ型の方法であるため

京都議定書では、トップダウンで温室効果ガスの削減を提唱していたことが公平性や実効性を疑問視される原因となりました。そこでパリ協定では日本がボトムアップのアプローチを提案し採用に至ります。各国は自国の状況を踏まえ、自主的な目標の設定と取り組みが可能です。経済発展との両立もしやすく、公平性にもつながりました。

パリ協定の目標達成に向けた日本の取り組み

日本は以下のNDCを表明・決定した上で、国連気候変動枠組条約事務局へ提出しています。(2021年10月時点)

「日本は、2021年4月に、2050年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。」

※出典:環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」
日本のNDC(国が決定する貢献)

上記達成に向けた日本の取り組みについて、詳しく解説します。

エネルギーミックス

エネルギーミックスとは、火力発電と風力発電のように多様な電源を組み合わせて構成比のバランスを取ることです。日本の電源構成では、非化石エネルギーや低炭素エネルギーの比率が低く、加えて化石資源にも乏しい状態です。そこでエネルギーミックスにより2030年には非化石電源比率を高め、NDCを達成できるよう進めています。

カーボン・クレジットの実証実験

2022年9月~2023年1月には、経済産業省の主導により東京証券取引所で「J-クレジット」の取引実証が行われました。実証では183の事業者や地方公共団体が参加し、合計で約15万t-CO2、3億円程度の売買代金となりました。実証の結果を踏まえ、さらなる流動性の向上や、ユーザーインターフェースの改善、取り扱いクレジットの種別追加などが議論の上検討されています。

気候変動に関する支援

パリ協定において、日本は気候変動に関する支援として2021年6月に2021年~2025年の5年間で、官民合わせて約1.3兆円の支援を実施すると表明しました。

2021年6月のG7サミットでは5年間が6.5兆円、同年11月のCOP26では新たに今後5年間で最大100億ドルの追加支援を行う用意があると表明しています。

パリ協定の目標達成に向けた世界の取り組み

パリ協定の長期目標達成に向け、世界でもNDCの表明と具体的な取り組みが進んでいます。ここでは、各国のNDCや取り組みをご紹介します。

アメリカ

2021年4月、アメリカは「2030年までに2005年比で温室効果ガスの50~52%削減」とNDCを表明しました。2022年7月には、異常気象対策などのインフラ強化に23億ドルを新たに拠出しています。また洋上風力発電をさらに普及するため、メキシコ湾で候補地の選定作業を進めると発表しました。

中国

中国では、2060年のカーボンニュートラル達成に向け、以下の2点のNDCを表明しています。

  • 2030年に2005年比でGDP当たりCO2排出量を65%減少させること
  • 2026~2030年で段階的に石炭消費を減少させること

これらの達成に向け、2005年比でCO2を吸収する森林資源の60億㎥拡大、太陽光などの再生可能エネルギー導入量を全体で12億kWの引き上げなども盛り込まれています。

EU

EUは2030年までに1990年と比べて、温室効果ガスの55%削減をNDCとして表明しています。2019年には「欧州グリーンディール」を発表し、脱炭素と経済成長の両立を図っています。具体的な取り組みは以下のとおりです。

  • エネルギー部門の脱炭素化
  • 建物の回収によるエネルギー料金・使用量の削減
  • イノベーションの促進
  • 低コストでクリーンなモビリティの普及

パリ協定達成における課題

長期目標は各国がこれまで以上に努力をしても、簡単に到達できるものではありません。また温室効果ガスの排出量割合が高い国で削減に向けた取り組みを進めないと、地球全体でのカーボンニュートラルは不可能です。パリ協定達成における課題について詳しく解説します。

長期目標のハードルが高い

パリ協定では、2度目標が長期目標として掲げられました。しかし目標達成はハードルが高い、非現実的で達成は不可能であるとの意見も少なくありません。

もし長期目標自体が達成できなかったり、達成しても地球温暖化に歯止めがかからなかったりすれば、対策の抜本的な見直しが必要になります。

世界全体でNDCの引き上げが必要

現在各国が表明しているNDCでは、2025年・2030年の目標を全て達成したとしても、長期目標の達成にはほど遠いとされています。そのため環境改善を目指すには、各国がどれだけNDCを引き上げられるかが重要です。

目標達成が義務とされていない以上、世界全体の進捗を評価するグローバル・ストックテイクにより、目標の遵守を促す仕組みを強化しなければなりません。

排出量の多い国の行動が必要

パリ協定では、地球全体でのカーボンニュートラルの達成も目標とされているものの、そのためには温室効果ガス排出量比率の高い国の行動が必要です。

2020年の各国のCO2排出量に占める割合は、中国32.1%、アメリカ13.6%、インド6.6%、ロシア4.9%、日本3.2%となっています。 このため極端な例を挙げれば、日本でカーボンニュートラルを実現するよりも、中国でCO2排出量を10%削減した方が地球全体の地球温暖化対策には効果的です。

CO2排出量が多い国のNDCをどれだけ引き上げられ、地球温暖化対策をどれだけ進められるかが長期目標達成の大きな鍵となります。

※参考:JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター「3-02 世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較(2020年)」
3-02 世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較(2020年)

経済との両立が不可欠

パリ協定の達成には、経済との両立も不可欠です。環境保護だけを進めた場合、地球温暖化対策に有効なイノベーションは生まれません。かといって、現在の状況のまま経済発展を重視すれば、温室効果ガスの排出削減は望めません。

温室効果ガスの削減を一つのビジネスチャンスと捉え、省エネ商品や低炭素製品の開発、国内外への普及の推進することが各企業や組織に求められます。

パリ協定実現のためにはビジネスとの両立が不可欠

パリ協定 とは、2020年以降の気候変動問題に対する世界的な枠組み のことです。2015年 フランス・パリで開催されたCOP21で採択され、翌2016年に協定の効力が発生しました。パリ協定では、世界共通の2度目標が掲げられ、達成のためには各国が自国の目標(NDC)を自ら設定し、達成の努力をしなければなりません。

パリ協定の実現 にはさまざまな課題があるものの、その中でもビジネスとの両立は不可欠です。各国の企業や組織には、経済発展と環境保護を両立させる取り組みが求められます。例えば、再生可能エネルギーを導入する、業務効率化により使用するエネルギー量を抑えるなど、できることから進めるのもよいでしょう。

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