2024年 6月 3日
カーボンニュートラル
EMS(エネルギーマネジメントシステム)とは、エネルギーの利用状況を確認・分析するシステムのことです。EMSを導入すると、エネルギーを適切に管理・使用できるため、コスト削減につなげることができます。本記事では、EMSのメリットや種類、課題をご紹介します。
工場やオフィスビルなどの施設で、エネルギーの使用量や管理方法に課題を抱えている事業者は複数存在します。この課題はEMS(エネルギーマネジメントシステム)を取り入れると、改善・解決が可能です。EMSには、下記のメリットや特徴があります。
本記事では、EMSのメリットや種類、課題などについて詳しく解説します。
EMSは、「Energy Management System(エネルギーマネジメントシステム)」の頭文字をとった略語で設備ごとのエネルギーの利用状況を確認・分析できるシステムのことを指します。EMSを知るには、まずエネルギーマネジメントについても把握しておきましょう。エネルギーマネジメントとは、エネルギーの使用状況を把握し、管理する取り組みのことです。一般的に以下のような流れで行われます。
エネルギーマネジメントを行うためには、専用のシステムであるEMS(エネルギーマネジメントシステム)が必要です。EMSでは施設のエネルギー使用状況を可視化でき、各機器が使用しているエネルギー量の分析、制御などを行えます。
EMSを導入することで、さまざまなメリットがあります。ここからは主なメリットについてご紹介します。
EMSを導入すると、経年劣化や故障が原因でエネルギーのパフォーマンスが下がっている機器や設備の特定が可能です。EMSには、リアルタイムでエネルギーの使用量が把握できるだけではなく、過去の使用量データも保存されており確認できます。過去のデータを比較して、現在のエネルギー使用量の差を算出し、エネルギー使用量が適切ではない機器を検出します。
保存されている過去データとの比較は、劣化が進行している機器や故障が起き始めている設備を事前に把握するのにも有用です。適切なタイミングで機器の入れ替えや修繕などを行えるので、大きな故障やトラブルに発展する前に対策を行えるでしょう。
EMSを利用すると、各設備の正確な消費エネルギー量の見える化と、省エネ推進が可能です。
EMSを導入していない場合、詳細なエネルギー使用量を知りたくても、請求書や明細には記載が無く、知ることができません。EMSを導入すれば、施設内において「どの設備が・どの時点で・どれくらいエネルギーを使用しているか」をリアルタイムで確認できます。
またEMSではそれぞれの設備に対して、時間ごとの使用量をチェック可能です。一日を通したエネルギー使用量に問題がなくても、時間帯別にエネルギーの使用量を確認することで、どのような無駄があるのかを見つけるきっかけになります。EMSによって得られた情報をベースに、施設全体のエネルギー使用の計画や対策を立てられるでしょう。
EMSの導入は、エネルギー運用の最適化に効果的です。EMSはエネルギー使用量を把握し、分析してエネルギー効率を改善できる機能を有しています。使用量の見える化から始まり、適切な運用体制を構築するサポートになるでしょう。
しかしEMSを導入したからといって、すぐにエネルギー使用量の最適化が図れるわけではありません。EMSはあくまでも情報が可視化され、分析のサポートとなるシステムです。EMSから得たデータを活用して、効率的にエネルギーを使用・運用する対策を考えることが大切です。
EMSには、エネルギーを可視化し管理するという機能があります。その上に、管理する施設の種類や管理対象に応じて、いくつかの種類に分けられます。詳細について見ていきましょう。
FEMS(Factory Energy Management System・フェムス)とは、管理する対象が工場のEMSのことを指します。工場のエネルギーコストの削減や生産性の向上が主な目的です。FEMSでは、受配電設備のエネルギー使用量の管理だけではなく、工場にある生産設備のエネルギー使用量も管理対象に含まれています。
FEMSは工場全体のエネルギーの使用量を把握し、サプライチェーンと連携したエネルギー使用の最適化を進めることが可能です。企業が省エネを目指して掲げる方針や目標、計画などを一連のプロセスとして定められたEMSの国際規格「ISO50001」により、導入が推進されています。
BEMS(Building Energy Management System・ベムス)は、管理する対象がオフィスビルや商業ビルのEMSのことです。BEMSにより、建物で使用されている照明や空調によって消費されるエネルギーを可視化し、無駄を省くことで省エネを目指せます。
大規模なビルでは、空調やセキュリティ設備管理の自動化と一元管理を図るシステムのBAS(Building Automation System)と連携して、エネルギー効率の最適化を目指すケースもあります。
HEMS(Home Energy Management System・ヘムス)は、一般の住宅での使用が想定されたEMSのことです。事業者向けのEMSではない点が、HEMSの特徴の一つです。家電などをネットワークにつなぐIoTテクノロジーの発展により、HEMSの普及が広がっています。外出先からネットワークを通じて家の機器を遠隔操作することで、無駄な電力を押さえられ省エネにつなげることが可能です。日本政府は2030年を目標に、HEMSの全世帯への導入を目標としています。※
※参考:内閣府「HEMS普及への課題と提案」
HEMS普及への課題と提案 (PDF)
CEMS(Community Energy Management System・セムス)が管理する対象は、特定の地域全体のエネルギーを管理するEMSのことです。地域にある発電所だけではなく、範囲内にあるなら企業や一般家庭、さまざまな施設などもエネルギーマネジメントの範囲に入ります。
オフィスビルなどを管理するBEMSや一般家庭で用いられるHEMSは消費する側の立場でエネルギーを管理しますが、CEMSは電力を供給する側の立場でマネジメントを行うことが特徴です。特定の地域のエネルギー使用量を可視化・最適化できるCEMSは、住宅や企業などで使用するエネルギーの需要を予測し、必要な量の調整・共有を行えます。
EMSを導入するとエネルギー使用量の可視化によって、省エネ・コスト削減が可能で、さまざまなメリットを得られます。一般家庭への普及も推進されているEMSですが、使用するにはいくつか課題があります。ここからは、EMSを導入するときの課題について見ていきましょう。
導入するにはイニシャルコストがかかり、これがEMSの大きな課題の一つです。さらにイニシャルコストだけではなく、適切な運用を維持するには、ランニングコストも求められます。運用計画を明確にしておかないと、効果的なコスト削減につながらない可能性もあるでしょう。
またコストの削減は、すぐに結果が出るものではありません。コスト削減を目指していても、一定期間以上期間がかかると認識した上で、結果が見えない間も継続的にランニングコストを支払い続けられるように予算を確保しておきましょう。
なお、EMSは金銭的な余裕がある企業や組織、家庭などしか利用できないと捉えられがちですが、経済産業省はイニシャルコストに対して、補助金制度を用意しています。補助金を利用できるかどうか条件を事前に確認しておきましょう。
エネルギーマネジメントシステムと、工場や施設に設置されている機器の仕様が合わない場合、EMSを適切に運用できずに適切な効果を得られない可能性があります。
例えば工場で用いられるFEMSに言及すると、機器の仕様やシステムの独自性が高い傾向にあるため、EMSとマッチしないケースがあるでしょう。機器の仕様がどうしてもEMSと合わない場合は、EMSに対応するような新機器を購入しなければならず、追加費用がかかってしまいます。エネルギー管理を実践し、コスト削減を目的としているのに、コストばかりかかる事態になりかねません。また新たな機器を購入する予算がない場合は、そもそもEMS自体の導入できない場合もあるでしょう。
EMSを正確に運用するには、専門的な知識やスキル、経験のある担当者が必要です。使用している機器ごとにEMSが提示したデータを把握・分析し、改善点を機器の運用に活かす能力が求められます。
EMS自体の知識だけではなく、省エネや電気の知識、広く捉えると法規関連まで知った上でEMSを運用する必要があるので、必然的に担当者には専門家として広く深い知識が期待されます。自社内でEMSの運用知識を十分に持つ人材がいない際は、EMSを提供する事業者に運用面でも相談するか、新たな人材を採用することを検討しましょう。
EMSを導入すれば、施設のエネルギー使用量を可視化したり、エネルギー効率に課題を抱える機器を検出したりできます。エネルギーの使用を最適化しやすくなり、省エネ化・コストの削減を見込めるでしょう。
一方で、EMSを適切に運用していくには、専門的な知識や経験を持った人材が必要です。また、イニシャルコストやランニングコストがどのくらいかかるのか、しっかりシミュレーションをしておくことも欠かせません。EMSを導入する前に、EMSを提供する事業者と相談を重ね、無理のない計画を立てるようにしましょう。