2023年 10月 20日
ルート探索・配送
トラックドライバーの人数は2012年頃から横ばいが続いています。しかし、EC業界の発展により、取り扱う荷物の個数が急激に増加したことから、ドライバー不足が深刻化する事態となりました。トラックドライバー不足の現状と解決策を解説します。
トラックドライバー不足が問題視されているものの、実は、2012年から現在まで従事者は約84万人と横ばいで推移しています。ではなぜ、ドライバー不足が問題視されているのでしょうか。それは、インターネットを介して物やサービスの売買ができるEC市場が急激に成長したためです。
EC市場の拡大に伴い、これまでと比べ、個人宅へ配送する荷物数も増加しています。トラックドライバーの人口は横ばいのため、結果的に1人当たりの業務負担が増えている状態です。
また、今後はトラックドライバーの高齢化が進むと言われており、ますますドライバー人口が減少すると考えられます。人材不足解消の鍵となるのが、業務の効率化や、ドライバーに少ないとされている若手・女性人材の活用です。
本記事では、トラックドライバー人口の現状と不足する原因、ドライバー不足の解決策を解説します。
2021年時点でドライバー等輸送・機械運転従事者数は約84万人と、2012年から横ばいで推移しています。※一方で、国土交通省によると、トラックドライバーの不足を感じている企業の割合は54%となっています。※
ドライバーの不足感は2018年の70%をピークに、2020年には39%と一気に低下しました。※これは、新型コロナウイルス感染拡大時の緊急事態宣言により、一時的に物流に影響があったためと考えられます。
ドライバーの高齢化や、下流工程に負担が増加するラストワンマイル問題など、さまざまな要因から今後はさらにドライバー不足が深刻化する可能性があります。
※出典:公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022」
日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022 (PDF)
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
現役ドライバーの高齢化や若年層の担い手不足など、物流業界では就業者の年齢に偏りが生じているというのが現状です。ドライバーが不足する原因を解説します。
1つ目の原因は、取り扱い荷物数の増加です。国土交通省の発表によると、2020年までの5年間に宅配で取り扱う荷物は10.9億個増加しています。※その理由として、EC市場の急激な発達により、スマートフォンなどから簡単に商品が購入できるようになったことが挙げられるでしょう。
前述のとおり、ドライバーの人数は2012年頃から横ばいで推移しています。就業者が大幅に減少している訳ではありませんが、増えてもいないということです。取扱荷物数は増加しているにもかかわらずドライバーの人数は変わっていないため、人材不足の状態になっています。
※出典:国土交通省「令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7%」
令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7% (PDF)
2つ目の原因は現役ドライバーの高齢化です。トラックドライバーの年齢構成は他の産業と比べ、中年層の割合が高い点が特徴です。就業者全体のうち、45.2%が40~54歳の階層に含まれ、全産業と比べても平均年齢は3~6歳ほど高い傾向にあります。現在中年層のドライバーは11年~20年後には65歳を迎えるため、ドライバーが一斉に不足することも考えられます。※
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
3つ目の原因は65歳以上のドライバーの就業が困難な点です。トラックドライバーは身体的な業務負荷が高いこともあり、他の業種と比べ65歳以上の就業者が少ないです。全産業で65歳以上の就業者が占める割合は13.7%に対し、トラックドライバーでは9.5%に留まっています。※
日本全体が高齢化していることを考えると、65歳以上のドライバーを増やすことができなければ、人材不足の解消も難しくなるでしょう。
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」 p. 9
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
4つ目の原因は若年層の担い手不足です。就業者のうち15~29歳の若年層が占める割合は全産業では16.6%なのに対し、トラックドライバーは10.1%と低い傾向にあります。※若い人材が不足しているため、現役世代が高齢によりドライバーを引退すれば、業界全体で人材不足が深刻化すると考えられます。
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」 p. 9
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
5つ目の原因は運転免許制度改正による影響です。以前までは普通免許を取得するだけで2tトラックの運転が可能でした。しかし、運転免許制度の改正により、2017年3月12日以降、新たに免許を取得しても最大積載量2t未満の車しか運転できなくなりました。※つまり、2017年の運転免許制度改正以降に運転免許を取得した場合や今後取得する場合は、普通運転免許を持っていても2tトラックを運転できません。運送会社によっては、準中型免許や大型免許の資格取得を補助しているケースもありますが、免許取得にかかる負担からドライバーを諦める人もいるかもしれません。
※出典:国土交通省「準中型免許制度について」 p. 3
準中型免許制度について (PDF)
6つ目の原因は女性ドライバーの進出遅れです。2015年時点で、トラックドライバー全体のうち女性が占める割合は2.5%に留まっています。全産業で女性が占める割合は43.2%程度のため、極めて低い水準です。※
労働力が中高年男性に偏ってしまっていることも、ドライバー人口が不足する原因の一つです。
※出典:国土交通省「トラック運送業の現状等について」 p. 5
トラック運送業の現状等について (PDF)
7つ目の原因は低賃金・長時間労働の恒常化です。若年層や65歳以上、女性のドライバーが増えない原因に、トラックドライバーの労働条件があります。特に労働時間は、1運行当たりの拘束時間が11時間30分~13時間30分程度と、長時間になりがちです。※
年間の労働時間の平均は、全産業では2,112時間なのに対し、中型トラックドライバーは2,484時間、大型トラックドライバーは2,544時間となっています。月に換算すると、全産業の平均と比べ中型トラックドライバーで31時間、大型トラックドライバーで36時間長い計算です。※
労働時間だけでなく、ドライバーの年収が全産業と比較して5~10%程度低いことも問題となっています。※
※出典1:国土交通省「トラック運送業の現状等について」 p. 4
トラック運送業の現状等について (PDF)
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」 p. 11
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
ラストワンマイルとは、最後の配達区間のことです。具体的には、物流センターから消費者の配達地域(個人宅)までを指します。なお、ラストワンマイルはもともと通信業界で使われていた言葉で、近年では物流業界でも使われるようになりました。
ラストワンマイルについては、大手通販事業者やEC事業者などが他社と差別化を計るためのサービス競争が激化しています。例えば、全国対応や当日配送、送料無料などが挙げられます。
しかし、サービスを充実させた結果、運送会社の負担が増加しラストワンマイルの問題点として注目されるようになりました。具体的な問題は以下のとおりです。
ラストワンマイルでのサービスが過剰になったために、ドライバーに負荷がかかったり、運送会社の利益を圧迫してドライバーの給与を上げられなくなってしまい、離職率の増加につながっているとされています。
現在でも業務量に対してドライバー人口が見合っていないと言えますが、2024年問題によってドライバー不足が加速する可能性があります。
2024年問題とは、自動車運転業務における時間外労働の上限規制に伴う諸問題です。2024年4月から自動車運転業務では、時間外労働は年間960時間までの上限規制が設けられます。※
そのため、これまでドライバーの時間外労働により物流を支えていた会社では、今後業務を円滑に遂行できなくなる恐れがあります。また、長時間労働によって収入を維持していたドライバーは、時間外労働が制限される分、収入に影響がでるでしょう。
以上のように、2024年問題によってドライバー不足はさらに深刻化するかもしれません。
※出典:厚生労働省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」
我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 (PDF)
物流業界でドライバー不足を解消するためには、業務自体の効率化や、若手や女性人材の活用といった対策が必要です。ドライバー不足への対策として、以下のポイントを解説します。
配送業務では、物流倉庫での荷役作業や荷待ちの時間など、配送以外にかかる時間も多くあります。また、運転日報の作成など、帰社後に事務作業が必要なケースもあるでしょう。
業務を効率化するには、荷役作業を機械化したり予約受付システムを取り入れて荷待ち時間を減らすといった方法が挙げられます。他にも、運転日報業務をドライブレコーダーやAIを活用し自動化・電子化すれば、事務負担の軽減につながります。
残業時間の削減や賃金改善はもちろん、有給休暇を取得しやすくする、働く時間を選べるようにするなど、労働条件の改善も必要です。トラックドライバーに対しては長時間労働・低賃金というイメージも根強く、そういった労働環境に関するマイナスのイメージも人材不足に影響しています。ドライバー不足解消に向け、物流環境の改善を支援するホワイト物流の推進も進んでいます。
労働条件の改善とともに、採用活動ではドライバー職の魅力のPRも大切です。ドライバー職の魅力は、1人で仕事を完結できる、業務時間中車に乗っていられる、家に仕事を持ち帰る必要がないなどが挙げられます。
特に、人間関係に縛られず1人で仕事をこなせる点はメリットとして挙げられることも多いため、こういったトラックドライバーならではの魅力を発信するのも重要です。
若手人材の採用にあたっては、新人教育に時間をかけ、悩みや問題を相談できる環境を整えましょう。トラックドライバーは若手人材が少ないだけでなく、定着率が低い点も課題です。例えば、仕事は見て覚えるものとして教育するのではなく、仕事上で使えるマニュアルを揃えておいたり、周囲のサポート体制を充実させることで若手の未経験者でも業務しやすくなるでしょう。
女性が働きやすい環境を整備することも重要です。国土交通省では女性トラックドライバー、通称トラガール推進プロジェクトを実施しています。女性ドライバーが増えることで、人手不足が解消されるだけでなく、安全管理や教育体制が整っているとして企業イメージが向上するといった効果も期待されています。
運送会社で女性ドライバーを増やすには、バックモニター付きトラックやドライブレコーダーを取り入れるなど安心して運転できる環境づくりをする、ドライバー同士でコミュニケーションを取れる方法を導入して働きやすい職場づくりをするなどの工夫が必要です。また、男性との筋力や体力の差を考慮した業務の振り分けも大切です。
EC業界の発達した現代では、今後物流量が低下する可能性は低いでしょう。この先、ドライバー不足はさらに進んでいくと考えられており、物流を維持するためには人材不足への対策が必要です。運送業界でのドライバー不足解消の鍵は、業務の効率化や新たな人材の活用にあります。
業務効率化のためのシステムを導入したり、女性ドライバーの採用を促進するなど、人材不足解消に向けた積極的な取り組みが求められるでしょう。