2023年 10月 20日
ルート探索・配送
再配達問題は再配達の増加に伴う社会問題です。ドライバーの業務負担や運送会社の生産性低下、CO2の排出量増加などが指摘されており、これらの問題解決のためにも改善が求められています。再配達問題が社会に与える影響や原因・解決策を解説します。将来的には送料無料のサービスがなくなり、再配達は有料化されるかもしれません。
再配達問題は再配達の増加に伴い社会問題の一つとなっています。近年、EC市場の急成長から宅配便取扱個数が増加し、それにより再配達の個数も増加しました。再配達が必要な荷物は全体の約1割に達します。労働力に換算すると年間約6万人のドライバー分に相当し、毎年それだけの労働力が利益の出ない再配達のために失われている計算です。さらに、CO2は再配達のみで年間約25.4万トン排出されると推計されており、環境に対する影響も問題視されています。このため、国土交通省は再配達の削減に向けた取り組みを強化しています。※
本記事では、再配達問題とは何か、再配達問題が社会にもたらす影響や原因と対策、送料無料が実質的になくなる可能性と再配達が有料化される見込みなどについて解説します。
※出典:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて」
宅配便の再配達削減に向けて
再配達問題は、荷物の再配達が増加したことにより社会問題化しています。最初に配達されたときに荷物を受け取れず、後日改めて配達してもらうことを再配達といいます。急な用事で荷物を受け取れなくても、再度配達してもらえるため利便性が高い反面、再配達が増えることによりドライバーの負担やCO2の排出量が増加しているといったことが問題視されています。
ここでは、配達個数の推移や再配達の増加率を元に、再配達問題とはどのようなものかを解説します。
国土交通省の発表によると、2020年までの5年間で宅配便取扱個数は約10.9億個(+約29.1%)増加しました。これは、近年のEC市場の急速な成長と利用者の増加、ライフスタイルの多様化などが要因とされており、2020年の時点でEC市場は全体で19.3兆円規模、物販系分野で12.2兆円規模に成長しています。※
宅急便取扱個数自体が急激に増加したことで、再配達にかかる負担も大きくなっています。
※出典:国土交通省「令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7%」
令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7%
宅配便取扱個数全体の約1割が再配達を利用しているとされており、エリアごとの再配達の個数は以下のとおりです。※
地域 | 配達総数 | 再配達数 | 再配達率 |
---|---|---|---|
都市部 | 980,453個 | 125,278個 | 12.8% |
都市部近郊 | 1,512,202個 | 169,606個 | 11.2% |
地方 | 145,411個 | 14,646個 | 10.1% |
総計 | 2,638,066個 | 309,530個 | 11.7% |
個数でみると、都市部近郊が再配達個数は多いものの、割合で見ると地域を問わず1割ほどが再配達を利用していることが分かります。
※出典:国土交通省「令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7%」
令和4年4月の宅配便の再配達率は約11.7%
再配達率は2020年以降横ばいで推移しています。再配達率は2017年から2019年までは15.0~16.0%ほどでしたが、2020年4月には8.5%まで減少しました。これは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言や、在宅勤務・リモートワークの増加が影響していると考えられます。
しかし、2020年10月からは緊急事態宣言の解除に伴い再配達率が11%台まで増加し、現在まで続いています。※
※出典:国土交通省「宅配便の再配達率が微増~令和 3 年 10 月の宅配便の再配達率は約 11.9%~」 p. 3
宅配便の再配達率が微増~令和 3 年 10 月の宅配便の再配達率は約 11.9%~ (PDF)
再配達の増加は個人や企業の問題だけに留まらず、社会問題としても注目されはじめています。今後再配達個数がますます増加した場合、ドライバー人口の減少や2024年問題が重なれば、物流自体が維持できなくなるかもしれません。なお、2024年問題とは、自動車運転業務の年間時間外労働上限時間を960時間に制限する法律施行に伴う諸問題のことです。※
さらに、再配達ではCO2排出量など、環境汚染も問題に挙げられています。
※出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」
時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務
ここでは、再配達問題がもたらす影響を解説します。再配達が増加すれば、運送会社やドライバーの負担増加やCO2の排出量が増加するだけでなく、最終的には利用者の利便性の低下も招いてしまいます。
再配達はドライバーの労働時間を圧迫し、心身の負担増加につながります。再配達をしたからといって、その分の手当が払われる訳ではありません。個人で配送業を行っている事業者であれば、再配達にかかるガソリン代といった負担も大きくなるでしょう。
再配達でドライバーの負担が増えれば、運送会社の生産性低下にもつながります。国土交通省の試算によると、約1割にのぼる再配達を労働力に換算すると年間約6万人分のドライバーの労働力に相当するとされています。※
再配達にかかる費用を負担するのは運送会社です。人件費や燃料費がかかることで利益まで圧迫するため、賃金の上昇などの待遇改善ができず、ドライバーが離職してしまうという悪循環につながる可能性があります。
※出典:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて」
宅配便の再配達削減に向けて
CO2排出量の増加も再配達が問題視されている要因の一つです。再配達時にトラックから排出されるCO2の量は、年間約25.4万トンと推測されています。 ※CO2の増加は地球温暖化を進行させ、異常気象や地域の気候状況の変化、海水面の上昇など、さまざまな環境問題を引き起こします。そのため、再配達の増加は自然環境の汚染にもつながるといえるでしょう。
※出典:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて」
宅配便の再配達削減に向けて
再配達の増加により運送会社の生産性が低下すれば、利用者の利便性悪化も避けられません。例えば、送料無料のサービスがなくなったり、再配達が有料化あるいは停止されるなど、今までどおりインターネット通販を利用するのが難しくなるかもしれません。
前述のとおり再配達問題は運送会社を圧迫しています。今後も再配達問題が解決されず、物流が成り立たなくなれば、再配達が有料化される可能性もあるでしょう。特に食品を扱う業者では、再配達による商品のロスという問題もあります。一部では再配達の有料化を始めているところもあり、今後有料化の動きが広がることもあり得ます。他にも、再配達料を徴収せずに再配達を見越した送料に値上げする、送料無料を廃止するといったことも考えられるでしょう。
再配達増加の原因の一つは、宅配便取扱個数自体の増加にあります。また、国土交通省の調査では、再配達を依頼した理由として、日時指定できない商品であったため再配達せざるを得なかったとする回答が多くなっています。再配達問題の原因を具体的に見てみましょう。
EC市場の急拡大に伴い、これまで以上に宅配便取扱個数が増加しました。特に、最近ではスマートフォンの普及によって、EC市場もスマートフォン経由の利用が増えています。いつでも・どこでも必要なものを買えるようになり、利用者にとっては便利になったものの、宅配便取扱個数が増加し、そのしわ寄せがドライバーに来ている状況です。
国土交通省の2022年の調査によると、再配達が必要となった理由の上位3つは以下のとおりです。※
ECサイトによっては、自分では配達時間を指定できないサイトや商品もあります。いつ配達に来るか分からず、不在にしてしまったというケースが多いようです。
※出典:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて」
宅配便の再配達削減に向けて
再配達が簡単にできてしまうことも、再配達問題の原因の一つといえるかもしれません。再配達は無料のサービスとして定着しており、電話やインターネットから気軽に申し込めます。再配達を申し込むとき、ドライバーにどの程度手間や負担がかかるか、利用者が考えることは少ないかもしれません。手軽でコストがかからないために、再配達の利用が減らないとも考えられます。
再配達問題を解決するために、利用者が実践できることをいくつか紹介します。
日時指定ができる商品であれば、確実に商品を受け取れる日時を指定しましょう。もし指定した日時に予定が入ってしまった場合、後述するコミュニケーションツールなどを使えば事前に指定日を変更できることがあります。
現在では、対面で受け取る以外にもさまざまな受取方法があります。仕事で帰りが遅くなるなど配達時間内の時間帯指定が難しい場合もあるでしょう。以下のような多様な受け取り場所を活用するのがおすすめです。
コンビニ受け取りや宅配ロッカーであれば24時間利用できることが多いため、時間帯指定が難しいときにも自分の都合に合わせて受け取りが可能です。
運送会社の多くは、SNSやメールなどのコミュニケーションツールで配達時間のお知らせをしています。コミュニケーションツールから公式サイトに遷移すれば、受け取り時間帯の変更も可能です。これらのツールを事前に登録しておけば、時間帯指定ができなかった、いつ配達されるか分からなかったなどの理由による再配達を減らせます。
日用品をECサイトで購入しているのなら、例えば、1カ月分をまとめて1回で購入するだけでも、物流量の削減・再配達の削減につながります。配達回数が多くなれば、それだけドライバーの負担が増え、再配達の可能性も高まります。利用者の意識次第で配達回数を減らすことが可能です。
荷物を発送するときは、相手の在宅日時を事前に確認してから発送しましょう。特に、コミュニケーションツールの活用が難しい世代の人に送る場合、発送する人が在宅日時を指定することで再配達を防止できます。
再配達問題は再配達の増加に伴う社会問題です。再配達の増加は、ドライバーの負担増加・運送会社の生産性低下・CO2の増加など、さまざまな問題につながります。
そのため、国や運送会社で再配達問題を周知するだけでなく、利用者一人ひとりが再配達の削減に向けた取り組みを行うことが大切です。できることから始めて、再配達を削減しましょう。