2023年 10月 20日
ルート探索・配送
労働生産性を向上するには、生産物の物量や付加価値額、労働量などを用いた計算式で自社の労働生産性を計ることが大切です。労働生産性の値が低い場合は、業務の標準化や自動化などの対策を行い、従業員1人当たりの労働生産性の向上に努めましょう。
現代の日本は働き手不足の問題に直面しており、従業員一人当たりの労働生産性の向上が急務とされています。まずは労働生産性の計算式を用いて、自社の労働生産性がどの程度なのか、客観的に把握してみましょう。もし労働生産性が適正でなければ、自社の課題や問題点を洗い出し、労働生産性の向上に努める必要があります。
労働生産性を向上することで、人材不足の問題を解消できるのはもちろん、コスト削減や従業員のワークライフバランスの向上など、さまざまなメリットが期待できます。労働生産性の向上のためには、KPIの設定やボトルネックの洗い出し、補助金の活用といった方法があるため、自社に合った方法を取り入れることが重要です。特に物流業界では、ラストワンマイル問題によってドライバーの人材不足が深刻化しており、社会的にも取り組むべき課題となっています。労働生産性を上げることは、こういった問題の解決にもつながるでしょう。
本記事では、労働生産性の基礎知識と計算方法、判定方法、労働生産性を向上するメリットや向上させるポイントについて解説します。
労働生産性とは、従業員1人当たり、または1時間当たりに生産できる成果を数値で表した付加価値額のことです。労働の効率性を計る目安となるもので、労働生産性が高いほど、現場に投入されている労働力が効率的に利用されているということになります。
労働生産性は、労働力によって生み出されるものによって大きく2つに分けられます。
1つ目は、物的労働生産性です。労働によって生み出された生産物の個数やサイズ、重量といった物理的な量を労働産出量とし、労働生産性を計ります。物量を基準としているため、物価の変動などの影響を受けにくいところが特徴です。主に製造業などで、現場の純粋な生産能力や業務効率を計測したい場合に用いられています。
2つ目は付加価値労働生産性です。労働によって新しく生み出された物やサービスを金銭的な価値に換算したもの(付加価値)を労働産出量とし、労働生産性を計ります。通常、商品を販売する際は原価よりも高い価格で販売されます。ここでいう原価とは、原材料や外注費、機械の償却費用など、生産にかかった費用のことです。実際の販売価格と原価の差が労働産出量の元になる付加価値です。
労働生産性の計算式は、物的労働生産性を出す場合と、付加価値労働生産性を出す場合で異なります。自社の労働生産性を計算することで、全国の同業種の平均値や同業他社の数値と比較して自社の課題を見つけることができます。
物的労働生産性の計算式は、生産物の物量÷労働量です。
例えば、ある生産現場で5人の従業員が7時間労働し、100個の商品を製造した場合、従業員1人当たりの労働生産性は100個÷5人=20個となります。労働者1人の1時間当たりの物的労働生産性を計算したい場合は、労働量として、あらかじめ労働人数×労働時間を算出します。上記の場合は5人×8時間=40時間で、物的労働生産性は100個÷40時間=2.5個です。
付加価値労働生産性の計算式は、付加価値額÷労働量です。付加価値額は、労働によって生み出した物やサービスの販売額から、原価を差し引いて計算します。労働量は、物的労働生産性同様、労働人数または労働人数×労働時間を用います。前者なら従業員1人当たりの付加価値労働生産性を、後者なら従業員1人の1時間当たりの付加価値労働生産性を求めることが可能です。
例として、ある生産現場で5人の従業員が8時間で製造し、その原価が15万円、販売額が30万円だった場合、付加価値額は30万円-15万円=15万円です。これを付加価値労働生産性を求める計算式に当てはめると、15万円÷5人=3万円となります。また、従業員1人の1時間当たりの付加価値労働生産性を求める場合は、労働量が5人×8時間=40時間で、15万円÷40時間=3,750円となります。
自社の労働生産性を計算したら、それが適正な値なのかどうか判定する必要があります。ただし、労働生産性の数値には、この数値を超えれば労働生産性が高いといった明確な基準が存在しません。そもそも、労働生産性の値は企業規模や業種などによって異なります。そのため、自社の労働生産性を客観的に把握するには、同じ業種かつ同程度の企業規模の他社の労働生産性と比較するのが一般的です。
労働生産性を比較する方法は、大きく分けて2つあります。まず1つ目は、官公庁などが発表している労働生産性の平均値や中央値を用いる方法です。例えば、中小企業庁では、労働生産性の中央値を規模別、業種別に公開しています。令和2年度法人企業統計調査年報を元に算出した企業規模別・業種別の労働生産性の中央値は以下のとおりです。※
業種 | 中小企業 | 中堅企業 | 大企業 |
---|---|---|---|
建設業 | 675万円 | 950万円 | 1,373万円 |
製造業 | 520万円 | 731万円 | 970万円 |
情報通信業 | 563万円 | 857万円 | 1,242万円 |
運輸業、郵便業 | 520万円 | 735万円 | 920万円 |
卸売業 | 624万円 | 943万円 | 1,164万円 |
小売業 | 475万円 | 622万円 | 690万円 |
宿泊業、飲食サービス | 186万円 | 175万円 | 294万円 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 332万円 | 355万円 | 368万円 |
上記の企業規模は、資本金10億円以上が大企業、資本金1億円以上10億円未満が中堅企業、資本金1億円未満が中小企業です。※上記を見ても分かるとおり、企業規模や業種によって労働生産性は大きく異なります。
建設業や情報通信業、卸売業では中小企業と大企業の格差はかなり大きいですが、生活関連サービス業・娯楽業では企業規模による差はほとんどありません。また、業種による格差も大きく、大企業の場合、労働生産性の中央値が高い建設業と、低い宿泊業、飲食サービスとでは、労働生産性に1,079万円もの差があります。※このように、企業規模や業種によって労働生産性の中央値には差があるため、自社の企業規模、業種に合わせて比較しましょう。
2つ目の方法は、同業他社の労働生産性を計算し、自社と比較する方法です。各企業が公表している数値を元に、同程度の規模の同業他社の労働生産性を計算すれば、自社の労働生産性が業界内で高いのか低いのか判断する目安となります。自社で同業他社の情報をリサーチしなければならない分、1つ目の方法に比べるとやや手間はかかりますが、自社と近い性質を持つ企業と比較ができるため、判定の精度が高くなるのがメリットです。
自社のニーズや目的などに応じて、どちらの方法を選択するか決めましょう。
※出典:中小企業庁「第6節 労働生産性と分配」
第6節 労働生産性と分配
企業の労働生産性を向上させると、さまざまなメリットがあります。以下のメリットについてそれぞれ解説します。
労働生産性の向上は人材不足の解消にもつながります。前述のとおり、現代日本は慢性的な労働力不足に陥っています。総務省が公表している労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要によると、労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2022年平均で6,902万人でした。※前年に比べると約5万人減少しています。
近年は女性の社会進出に伴い、労働力人口そのものは2012年から右肩上がりに増加しています。一方で、15~64歳の労働力人口は2022年平均で5,975万人と、前年比6万人減です。特に働き盛りと言われる25~44歳までの労働力人口は、十年ほどでほぼ連続して前年比減となっています。※少子高齢化が顕著な現代日本において、現役世代が定年や引退を迎えた後、労働力人口は大幅に減少すると考えられています。
企業が今後成長・発展していくためには、現段階から人材不足の問題を解消し、必要な労働力を確保しなければなりません。労働生産性を向上すれば、今より少ない人手で必要な労働力を確保できるようになるため、人材不足による労働生産性低下の防止につながります。
※出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2022年(令和4年)平均結果の概要」
労働力調査(基本集計) 2022年(令和4年)平均結果の概要 (PDF)
従業員一人の労働生産性が向上すれば、残業や休日出勤等の時間外労働のコストを削減できます。時間外労働には割増率が適用されるため、残業や休日出勤が減ることで大幅な人件費カットにつながります。また、時間外労働の際にかかる光熱費の節約にもなるでしょう。
業務効率化などによって労働生産性を向上すれば、業務負担が軽減され、従業員のモチベーションアップにつながります。例えば、これまでアナログ式だった工程にシステムを導入し、作業の一部を自動化すれば、業務にかかる手間と時間を省くことが可能です。時間外労働が少なくなったり、有給休暇を取得しやすくなってワークライフバランスが整うことで、従業員のモチベーションの向上効果が見込めます。従業員のモチベーションが高いと業務効率アップにもつながるため、さらなる労働生産性向上も期待できるでしょう。
労働生産性の向上によって浮いたコストを新規事業や設備などに投資すれば、新たな利益を生み出しやすくなります。付加価値の高い事業をスタートさせれば、さらに労働生産性が高まるという好循環ができ、企業経営をより良い方向へ進められるかもしれません。
労働生産性を向上させる方法の例として、以下の3つがあります。それぞれ具体的に解説していきます。
日常の業務はマニュアルなどを整備した上で標準化することが重要です。業務をマニュアル化していないと、従業員が自己流のやり方で業務をしてしまい、一人ひとりの労働生産性にばらつきが出やすくなります。マニュアルは従業員がいつでも確認できる場所に設置するか、あるいは一人ひとりに配布するのがおすすめです。PDCAを回して適宜改善や修正を入れる場合は、クラウド上で共有するとよいでしょう。
ITツールなどを導入し、業務の自動化を図るのも有効な手段の一つです。例えば物流業界の場合、ITツールを活用すれば、これまで手動で行っていた配送ルートの作成を、シミュレーション結果に基づいて自動で作成できます。また、システムを導入することで倉庫の在庫管理や出荷などの自動化も可能です。ITツールやシステムで作業の大半を自動化すれば、従業員の手間が減るのはもちろん、人的ミスの低減にもつながるため、労働生産性の向上につながります。
労働生産性の可視化によって、自社の問題点を洗い出すことが可能です。また、労働生産性を数値で確認することで、対策の効果が出ているかを検証できます。計算式を用いた労働生産性の数値は全従業員で共有し、前月比で数値が下がった場合や業界平均より数値が低い場合は、どこに問題があるのかしっかり洗い出し、然るべき対策を講じる必要があります。問題や課題を見える化すると従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
慢性的な人材不足が社会問題と化している日本の産業において、労働生産性の向上は優先的に取り組むべき課題とされています。労働生産性が向上すると、人材不足の解消やコストの削減、従業員のモチベーションアップ、新規事業や設備への投資といったさまざまなメリットがあります。
特に物流業界では、ラストワンマイル問題などによってドライバー不足が深刻化しています。ラストワンマイルとは、配送の最終拠点から消費者へ渡るまでの最後の区間のことです。ラストワンマイルでは、他社との差別化を図るためにサービス競争が激化しています。例えば当日配送や再配達無料といったサービスが挙げられますが、こういったサービスによってドライバーの負担が増えることで、人材不足が加速しています。労働生産性の向上で人材不足が解消されれば、物流業界におけるラストワンマイル問題の解決にもつながるでしょう。
労働生産性を上げるには、まず計算式を用いて自社の労働生産性を算出し、同業の平均値や中央値と比較して労働生産性が高いのか低いのかを確認することが重要です。もし平均値や中央値よりも低い場合は、業務の標準化・自動化や、労働生産性を可視化して問題点を洗い出すなど、労働生産性を向上させるための対策をしましょう。