2023年 10月 13日
ルート探索・配送
物流業界では、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが行われています。環境負荷が低い輸送手段に切り替えるモーダルシフトや、二酸化炭素の排出量が少ない次世代トラックの導入などが一例です。物流業界におけるカーボンニュートラルの重要性や取り組み事例を解説します。
2020年10月、政府が2050年までにカーボンニュートラル※1を目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量と、植林などによる吸収量を均衡させ、全体としてゼロにする取り組みです。
2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、さまざまな業界が取り組みを進めています。運輸部門は日本の二酸化炭素排出量※2の17.4%を占めているため、物流業界も例外ではありません。
物流業界は、モーダルシフトの実現や、連結トラックや次世代トラックの導入、置き配の普及など、二酸化炭素排出量の削減に取り組んできました。本記事では、物流業界でのカーボンニュートラルの重要性や、具体的な取り組み事例を詳しく解説します。
※1 出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
カーボンニュートラルとは
※2 出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
運輸部門における二酸化炭素排出量
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。
つまり、自動車や船舶などから排出される温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理によって増えた温室効果ガスの吸収量を差し引き、合計を実質的にゼロにする取り組みがカーボンニュートラルです。
カーボンニュートラルの考え方が広がったきっかけは、2015年のパリ協定です。パリ協定では、気候変動問題の解決のために「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」等の世界共通の長期目標が定められました。※
パリ協定の目標を達成するため、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて取り組んでいます。※
※出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
自動車や船舶などの輸送手段を通じて、大量の二酸化炭素を排出している物流業界もカーボンニュートラルへの取り組みをしています。環境省や経済産業省は、2050年カーボンニュートラルの実現のため、物流業界(運輸部門)を対象として、さまざまな提言を行っています。
以下は、環境省の地球温暖化対策計画※1と経済産業省の第6次エネルギー基本計画※2から抜粋したものです。
省庁 | 運輸部門に求める取り組み |
---|---|
環境省 |
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経済産業省 |
|
※1 引用元:環境省「地球温暖化対策計画」 p. 51
地球温暖化対策計画 (PDF)
※2 引用元:経済産業省「エネルギー基本計画」 p. 32
エネルギー基本計画 (PDF)
これらの動向を受けて、物流業界では以下の取り組みが進められています。
ここでは、カーボンニュートラルの実現に向けた物流業界の取り組みを詳しく紹介します。
モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することを指します。
トラックは二酸化炭素排出量が多く、環境負荷が高いといわれる輸送手段です。トラック輸送の一部を環境負荷の小さい鉄道や船舶に切り替えることで、二酸化炭素排出量を削減し、カーボンニュートラルの実現に貢献できます。
国土交通省の試算によると、1トンの貨物を1km運ぶときの二酸化炭素排出量は以下のとおりです。
輸送手段 | 二酸化炭素排出量 |
---|---|
トラック(営業用貨物車) | 216g |
鉄道 | 20g |
船舶 | 43g |
トラック輸送を船舶輸送に切り替えると約80%、鉄道輸送に切り替えると約91%もの二酸化炭素排出量を削減することが可能です。
※出典:国土交通省「モーダルシフトとは」
モーダルシフトとは
連結トラック(ダブル連結トラック)とは、1台のキャリアに2台分のコンテナを連結したトラックです。連結トラックを導入すれば、トラック1台で2台分の輸送が可能になります。
連結トラックは、ドライバーの人手不足を解消するために考案された輸送方法ですが、トラック台数の削減により二酸化炭素排出量を減らす効果も期待できます。国土交通省も連結トラックの導入を推進しており、トラック輸送に関わる特車許可基準を緩和しました。
次世代トラックは、従来よりも二酸化炭素排出量が少ないエコな車両を指します。例えば、二酸化炭素を一切排出しないEVトラック(電気トラック)や、クリーンな水素を燃料にした燃料電池トラックなどです。
水素ステーションをはじめとした設備面での課題もありますが、次世代トラックへの移行が少しずつ進められています。
近年、宅配便を中心に増えているのが置き配です。置き配は宅配ボックスなどを活用し、受取人の不在時に荷物を届ける配達方法を指します。
置き配のメリットは、宅配便の再配達の件数を減らせる点です。国土交通省によると、2022年10月のサンプル調査では宅配便の再配達率は約11.8%でした。
同じく、国土交通省の推計では、再配達のトラックから排出される二酸化炭素量は年間で約25.4万tに達します。再配達の削減※によってムダなトラックの運行を減らすことができ、カーボンニュートラルへの貢献につながるでしょう。
※出典:国土交通省「宅配便の再配達削減に向けて」
宅配便の再配達削減に向けて
物流業界でカーボンニュートラルへの取り組み重要な理由は、物流業界の二酸化炭素排出量が多く、排出量を大幅に削減できる可能性があるためです。
国土交通省の調べによると、2021年度における日本の二酸化炭素排出量の合計は約10億6,400万tです。その17.4%は、運輸部門からの排出量(1億8,500万t)が占めています。※
内訳 | 二酸化炭素排出量 |
---|---|
運輸部門 | 1億8,500万t(17.4%) |
業務その他部門 | 1億9,000万t(17.9%) |
家庭部門 | 1億5,600万t(14.7%) |
産業部門 | 3億7,300万t(35.1%) |
その他 | 1億5,900万t(15.0%) |
二酸化炭素排出量の内訳を見ると、運輸部門は産業部門、業務その他部門に次いで多いことが分かります。
モーダルシフトの実現、連結トラックや次世代トラックの導入、置き配の普及などの取り組みにより、物流業界の二酸化炭素排出量を削減できれば、2050年カーボンニュートラルに向けて大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。
※出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
運輸部門における二酸化炭素排出
さまざまな物流企業が、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて独自の取り組みを行っています。ここでは、国土交通省などが公開している資料を元にして、カーボンニュートラルを推進する物流企業の事例を2つ紹介します。※
※出典:経済産業省 中部経済産業局「中部発!カーボンニュートラル取組事例」
中部発!カーボンニュートラル取組事例
※出典:国土交通省「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」 p. 2
モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)(PDF)
1つ目は、「物流DX×二酸化炭素排出量の見える化」の実現により、輸送時の排出量削減を支援する国際物流マッチングサービスづくりに取り組んだ事例です。
国際物流マッチングサービスは、出発地点と目的地を入力すると、輸送時の二酸化炭素排出量を推計できる仕組みになっています。二酸化炭素排出量の推計を元にして、別の輸送手段の検討(モーダルシフトなど)や、二酸化炭素排出量が少ない脱炭素梱包材への切り替えといった対策をとることが可能です。
また、輸配送業務をデジタル化するクラウド型サービスにより、配送ルートの最適化や、トラック本数の削減につながります。
物流プロセス全体をデジタル化するデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、数値やデータに基づいた取り組みができるようになります。
2つ目は、トラック輸送の一部を鉄道輸送に転換し、モーダルシフト(ラウンド輸送)を実現した事例です。
鉄道会社と協力し、関東~関西の配送ルートの一部(約600km)を31フィートコンテナでの鉄道輸送に切り替えました。また、目的地でコンテナの積み下ろしを行った後、別の貨物を積み込んで出発地に戻る「ラウンド輸送」を導入し、合計4社が関わる異業種モーダルシフトを実現しました。
結果として、100.8t(62.1%)の二酸化炭素排出量が削減されています。ドライバーの運転時間も1,771時間(73.3%)削減されたため、ドライバーの長時間労働の是正にもつながる可能性があります。※
※出典:国土交通省「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」 p. 2
モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)(PDF)
カーボンニュートラルは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量と吸収量を人為的に均衡させる取り組みです。物流業界でも、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた動きが広がりつつあります。
例えば、モーダルシフトの実現、連結トラックや次世代トラックの導入、置き配の普及などといった取り組みが進められています。
カーボンニュートラルは、サプライチェーン全体が一丸となって取り組むべき課題です。物流業界におけるカーボンニュートラルの重要性を知り、実現に向けた取り組みを始めましょう。