2024年 12月 20日
安全運転指導
配送需要の増加により、軽貨物車両を使用した運送業が急速に拡大するなか、2025年4月1日よりスタートする貨物軽自動車運送事業における安全対策が強化される背景と新制度の概要を解説します。
近年、EC市場の拡大や配送需要の増加により、軽貨物車両を使用した運送業が急速に拡大しています。特に2020年以降、軽貨物車両を使用したラストワンマイル配送が物流の重要な一端を担っています。ラストワンマイル配送(LastMileDelivery)とは、商品や荷物が最終的な目的地(顧客の自宅や店舗)に届くまでの「最後の1マイル」の配送部分を指す物流の用語です。2022年におけるラストワンマイルの市場規模は約2.9兆円で、2025年の予測値は3.3兆円とされており拡大する需要から市場が拡大してきています。
EC市場規模の推移
宅配便取扱実績の推移
上記のグラフから、宅配便の小口化・多頻度化が進み、積載率の低下や再配達の発生などの非効率も発生しており、トラックドライバー不足などの労働力不足も顕在化している傾向が読み取れます。
※出典:「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」の開催について 経済産業省・国土交通省 (PDF)
届け荷が増加し、どうしても長時間労働になりがちな軽貨物車両での配送業務は、過労状態での運転を引き起こしやすく、またそれによる不注意事故の発生などが懸念されることが多く、また、ラストワンマイル配送の市場においては個人事業者や小規模事業者が多い性質上、法令遵守や安全対策が十分に行われていないケースが散見される状況があります。
これらの課題に対し、安全で持続可能な運送事業を確立するために、2025年4月1日より新制度が施行されることになりました。
新制度では以下の5つが義務化されます。
項目 | 概要 |
---|---|
(1)貨物軽自動車安全管理者の選任と 講習受講の義務付け |
貨物軽自動車運送事業者(バイク便事業者は除く)に対して、営業所ごとに「貨物軽自動車安全管理者」を選任し、講習の受講を義務付けるほか、当該選任時には運輸支局等を通じて国土交通大臣への届出を行うことを義務付けます。 |
(2)業務記録の作成・保存の義務付け | 貨物軽自動車運送事業者(バイク便事業者は除く)に対して、毎日の業務開始・終了地点や業務に従事した距離等の記録の作成及び1年間の保存を義務付けます。 |
(3)事故記録の作成・保存の義務付け | 貨物軽自動車運送事業者に対して、事故が発生した場合、その概要や原因、再発防止対策等の記録の作成及びこれらの記録の3年間の保存を義務付けます。 |
(4)国土交通大臣への事故報告の義務付け | 貨物軽自動車運送事業者に対して、死傷者を生じた事故等、一定規模以上の事故について、運輸支局等を通じて国土交通大臣への報告を義務付けます。 |
(5)特定の運転者への指導・監督 及び適性診断の義務付け |
貨物軽自動車運送事業者(バイク便事業者は除く)に対して、特定の運転者※への特別な指導及び適性診断の受診を義務付けるとともに、運転者の氏名、当該運転者に対する指導及び当該運転者の適性診断の受診状況等を記載した貨物軽自動車運転者等台帳を作成し、営業所に備え置くことを義務付けます。 |
上記の5つの義務付けに伴い、新しく追加されることになるポイント6つと、引き続き実施が必要となる項目を解説します。
貨物軽自動車運送事業者は、貨物軽自動車安全管理者に選任しようとしている者に貨物軽自動車安全管理者講習を、貨物軽自動車安全管理者に貨物軽自動車安全管理者定期講習を、国土交通大臣の登録を受けた講習機関で受講させなければいけません※1。
①貨物軽自動車安全管理者講習 | 貨物軽自動車安全管理者の選任にあたり受講 |
②貨物軽自動車安全管理者定期講習 | 選任後2年ごとに受講 |
※1: 貨物軽自動車運送事業以外の貨物自動車運送事業も行っている場合であって、現に運行管理者として選任されている者を除く
貨物軽自動車運送事業者は、営業所ごとに「貨物軽自動車安全管理者」を選任※2しなければいけません。「貨物軽自動車安全管理者」は上記講習の内容を理解し、課せられている安全対策を確実に行うようにしましょう。なお、「貨物軽自動車安全管理者」を選任したときは、主に以下の項目等について、運輸支局等※3に届出しなければいけません。
①貨物軽自動車運送事業者の氏名又は名称 |
②貨物軽自動車安全管理者の氏名及び生年月日 |
③貨物軽自動車安全管理者の選任年月日及び講習修了年月日 |
※2: 令和7年3月末までに貨物軽自動車運送事業の経営届出を行った事業者は、令和9年3月までに選任令和7年4月以降に貨物軽自動車運送事業の経営届出を行った事業者は、速やかに実施。
※3: 各地域の運輸局・運輸支局・陸運事務所・自動車検査登録事務所への届出。届出書の様式は後日、国土交通省のホームページにて掲載。
貨物軽自動車運送事業者は、以下の運転者に対して、特別な指導※3をしなければいけません。また、国土交通大臣に認定された適性診断の受診※3もさせなければいけません。
①初任運転者(過去に一度も特別な指導・適性診断を受けていない者) |
②高齢者(65歳以上の者) |
③死者又は負傷者が生じた事故を引き起こした者 |
また、貨物軽自動車運送事業者は、運転者の氏名、当該運転者に対する指導及び当該運転者の適性診断の受診状況等を記載した貨物軽自動車運転者等台帳を作成し、これを営業所に備え置かなければいけません。貨物軽自動車運転者等台帳の作成・保存は、書面または電磁的方法による記録・保存のいずれでも差し支えなく、電磁的方法としては、パソコンやスマートフォンを利用した記録・保存も含まれます。
※3: 令和7年3月末までに貨物軽自動車運送事業経営届出を行った事業者は、上記表内①②③の該当者に対し令和10年3月までに実施の必要があります。
貨物軽自動車運送事業者は、行った業務について主に以下の項目等の記録を作成し、1年間保存しなければいけません。
①運転者等の氏名 |
②車両番号(ナンバープレート等) |
③業務の開始、終了及び休憩の日時 |
④業務の開始、終了及び休憩の地点 |
⑤業務に従事した距離 |
⑥主な経過地点 |
※業務の記録についての様式については、後日国土交通省のホームページに掲載。
貨物軽自動車運送事業者は、事故が発生した場合、主に以下の項目等の記録を作成し、3年間保存しなければいけません。
①乗務員等の氏名 |
②事故の発生日時 |
③事故の発生場所 |
④事故の概要 |
⑤事故の原因 |
⑥再発防止対策 |
事業者は令和7年4月以降に引き起こした事故について、自動車事故報告書の提出を求められます。自動車事故報告書の提出先は、当該自動車の使用の本拠の位置を管轄する運輸支局等(各地域の運輸局・運輸支局・陸運事務所・自動車検査登録事務所)となり、提出期限は、事故があった日から30日以内となります。
貨物軽自動車運送事業者は、死傷者を生じた事故等、重大な事故が発生した場合、主に以下の項目等について、30日以内に所定の様式により運輸支局等(各地域の運輸局・運輸支局・陸運事務所・自動車検査登録事務所)を通じて国土交通大臣に報告しなければいけません。加えて、2人以上の死者を生じた事故等、重大な事故については、24時間以内においてできるだけ速やかに運輸支局等に速報しなければいけません。
①自動車の使用者の氏名又は名称 |
②事故の発生日時 |
③事故の発生場所 |
④当時の状況 |
⑤当時の処置 |
⑥事故の原因 |
⑦再発防止対策 |
※事故報告における書式様式については、後日国土交通省のホームページに掲載。
乗務前に、運転者や事業用自動車に何らか問題が確認された場合は、運行してはいけません。また、点呼の内容は日々点呼記録簿※に記録したうえで1年間保存しなければいけません。
※参考:点呼とは…点呼は安全運行の要 国土交通省資料 (PDF)
安全な運行のために以下の内容を守り、運転者に休憩や休息を十分に与えましょう。
※参考:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
運転者に対する指導及び監督を毎年実施する必要があります。また、①実施した日時と場所、②実施内容、③実施した者と受けた者、を記録したうえで3年間保存しなければいけません。
※参考:運転者に対する指導監督の概要
この新制度は令和6年10月1日に公布され、貨物軽自動車事業者に対する安全規制は令和7年4月1日より施行される予定です。また、経過措置として既存の貨物軽自動車運送事業者に対する規制については、下記のような猶予期間が設けられています。
また、講習を行う側である“講習機関に関わる登録”は令和6年11月1日から、登録申請が開始されており、2024年末、もしくは2025年の年始を目途に国土交通省のホームページに講習受講可能な機関の一覧が掲載される予定です。(※2024年12月9日現在)
今回の規制強化に関する行政処分については、具体的な基準について、今後制定される予定ですが、以下のような罰則が想定されています。
一人で事業を行っている場合は、自らにおいて改正される内容を理解する必要があります。理解するにあたっては、民間の研修機関等、外部の専門機関の研修等も有効に活用することが推奨されています。具体的な実施内容については、今後、国土交通省からマニュアル例が公開されるということですが、一人で事業を行っている場合は、指導監督マニュアルを理解することをはじめとして、自ら必要な知識を習得する必要があります。
※ 指導監督マニュアルは後日国土交通省のホームページに掲載。
2025年4月1日から施行される「貨物軽自動車運送事業の安全管理者制度」は、軽貨物業界全体の安全性向上を目指した重要な制度です。この制度の施行により、業界の持続可能性と信頼性が高まることが期待されています。一方で、事業者には管理体制の見直しが求められるため、現時点から新制度がどのようなものかを把握し、事前の準備をしておくことが大切なポイントになりそうです。