星野 佐奈絵

台湾・バム

「台湾の音を録りに行く」と初めて聞かされたとき、
正直言って、ほかのアジアの都市と同じで
車の音しか録れないんじゃないの?と思っていました。

ある出版社で旅の本を編集している私は、
台湾特集のムック出版に向けてリサーチをしているころで、
パイオニアの岡田さんにそそのかされ、
本の取材を兼ね、カメラマンを伴い、
5月中旬の「台湾バム」に便乗することになったのです。

が、初日から私の台湾に対するイメージはふっとびました。
なぜなら(私にとっては初めての台湾だったのですが)
私たちは空港に着くやいなや、台北には向かわず、
そのまま逆方向の阿里山に行ってしまったから。

「ゲゲッ。台湾って山ばっかり」。

しかしその感想は間違いではありません。
地図を見てみれば島の中央は
3000メートル級の山が連なる山脈がいくつも走り、
かなりの面積を占めていることがわかります。

早くバムりたくて(←こんな言葉、本当は使いません)
ウズウズしている岡田さん、西村さんに誘っていただき、
早速夜の阿里山に繰り出した私たち。
そこで遭遇したのが、
シンと静まりかえった夜の森から聞こえてきたカエルの大合唱。

もちろん耳でも聞こえるけれど、
マイクをセットし、ヘッドホンをつけ、神経を集中させれば、
カエルの声・声・声が、鼓膜にビンビン響いてきます。
立ち止まって耳を澄ませば、
ただ無意識に歩いているだけでは気づかない、
いろいろな「音」が耳に入ってくる。
「耳が開く」ってこういうことなんですね。

続いて行った温泉地の谷関
(ここで見た地震の爪痕は強く心に残っています)、
大雪山の「原始の森」でも、野鳥の声や風の音、
木々のざわめき、そして鼻にはフィトンチッドで、
台湾ってこんなにも自然の豊かな
「ヒーリングアイランド」だったのね。

そして最後にやっと台北にたどり着いた私たち。
異国語が飛び交うにぎやかな街、グルメにマッサージと、
やっと出合ったイメージ通りの台湾。
でも短い日程の中で山や谷を走ってきて、
台湾っていろんな顔があって、その多様性こそが魅力なんだな、
と気づいたのでした。

それにしても今回の取材はとても面白い体験でした。
通常、私たち編集の人間は、多数の人が興味を持つ、
人が集まる場所をまずピックアップして
雑誌や本に紹介することを考えます。
つまり台湾なら、なんといっても台北になるわけです。

ところが岡田さんや西村さんたち「音を録る」班は、
なるべく人のいないところへ、いないところへと行きたがります。
そして「写真を撮る」私たちと「音を録る」人たちの仕事って、
道具は違えど記録を残すということでは同じなんだな、
などと思ってみたり。

しかし雑音が出ないようジェスチャーで意思疎通したり、
忍び足で歩きながらシャッターを切るカメラマンなど、
やたら現場が静かで、
一歩引いて見ているとかなりおかしかったです。

余談ですが、旅行好きな私ですけど、
旅先ではほとんど写真を撮りません。
これは単に写真がヘタな自分自身に起因するわけですけど、
フレームに収まった景色って、どうしても目で見るより
イメージが矮小化してしまうからなのです。
ところが「音」を聴くことで、
そのときの記憶がパーッと頭に広がるんですね。

今でもたまに「カエルの大合唱」を聴くと、
阿里山の夜のことを思い出します。
音って面白い「旅の記録媒体」なんですね。
ちょっとハマリそう・・・。

その日の夜は本当に寒かった。
初めて寒くて眠れないという経験をした。
朝は霜の世界が広がっていた。

さて、今回の“釣果”ですが、初心者のくせに生意気にも
「雑音のないいい音をとりたい!」と欲張りましたが、
録音を始めて息をころしているときに限って咳が出たり、
お腹が「グー」と鳴ったりして、
その音もしっかり録音されていました。
そんな「つい入ってしまった音」も、後で聴きなおすと、
そのときの場面が頭に浮かんだり、思い出し笑いしたりで、
楽しかったりします。

バムスタッフより:
今回は「本気でロケハン!」モードだったので、移動&録音!なツアーでしたが、普段のバムはスロー・トラベリングで旅モード。それほど録音ばかりはして........いないつもりデス。
ところで、星野さんの話に登場する「台湾特集のムック出版」が、10/23('01)に発売されます。『台湾の音を聴いてみませんか?』というページもあり。

Sound Bum レポート #05 台湾編に戻る