麻倉 怜士先生選定
シャルル・ミンシュ指揮
ボストン交響楽団


『幻想交響曲』

(JMCXR-0001)第4楽章
「断頭台への行進」
最初の約2分


アナログ録音の極致とも言える、素晴らしい「音楽的な」音が特徴。ベルリオーズのオーケストレーションの複雑にして、精緻な名人芸だ。シャルル・ミンシュ/ボストン交響楽団という往年の黄金コンビは、きわめて情熱的で、テンションの張った演奏を聴かせる。




音響的には、弱奏が強奏に急激に盛り上がるティンパニの皮の振動、おどろおどろしさ、急激に膨れあがる空気感、トゥッティの爆発、そして、低弦の擦過感、その切れ込み、シャープネスの鋭さを聴く。と同時に、剛性感、充実感も凄い。金菅のマーチの突き抜ける輝き。音の芯がしっかりと存在し、音場空間に音の粒がぎっしりと詰まる。この音にはアナログの音楽性がたっぷり詰まっている。それをカー・オーディオでどう表現するか。



シャルル・ミンシュといったら、ベルリオーズの大スペシャリストである。「幻想」のまさにファンタジーたる所以の、幻覚、幻影、幻惑などの表現が、この演奏の中核をなす。濃密な表情や響きの剛性感がいかに聴けるか。音楽的な分解能、テンションの張り方も、表現しどころ。



高橋 和正先生選定
イエルク・デムス


『月影の寺に弾く』

(ONZ 102)より18曲目
「ドヴィッシー 月光に濡れる謁見のテラス」
最初から2分10秒


深夜、一人きりで車を走らす時のような、すい込まれるような静寂の中で、静かに、だがしっかりとした響きで鳴るピアノ「心にしみ亘る透明な静けさ」




●ドイツの名器、グロトリアン・モデル♯225を無指向性マイクでペア録りした自然で大きなダイナミズム
●深々とした、かつ力強い低音、透明で密度の高い中、高音
●無指向性マイクが採えたステージ〜ホールの響き
●2度の不協音の濁らない美しさが出せるか
●1分45秒〜2分10秒に上記の全てが聴ける




●老大家のゆったりした息づかいからほとばしる若者の様な情熱をコンサート最前列で聞く感じで再現したい
●ドヴィッシーの幽玄だが色彩的な和音、透明で豊かな響きの中から聴える詩が感じられるか



傳 信幸先生選定
マーカス・ミラー

『M2

(ビクターVICJ60737)より1曲目

「POWER」
最初から約2分


うまい、うまいを通り超して、呆気にとられるマーカス・ミラーの超人技が縦横無尽。オーディオ機器にとってこれだけ再生が難しい音楽CDは少ないから、ハードルの高い挑戦になる。




特にトラック1は、重低音のもの凄いパワーだけではなく、低音から高音まで幅広くエネルギーがあり、しかも密だ。重低音を濁らせないようにするのはもちろん、ベースがハイポジションでメロディーをとるツンツンという中高音のアタックを立たせる。



ベースという楽器をまるごとしゃぶりつくした演奏を、まるごとしっかりと受けとめて聴きたい。全体にバックのベースは重くてぼったりとしていてもいいが、メロディーラインのベース演奏をこもらせないこと。ふたつのベースの音のコントラストを確保すること。44秒の2コーラス目からバックに管、1分7秒のサビから弦がバックに入る。特にサビで一変してサウンドが軽く変わるところに注目。その前後の重いサウンドとのコントラストも大切。



パイオニア選定共通CD
Keiko Lee


『Voices』

(sicp-46) 4曲目
I SAW THE LIGHT


今回の課題曲中、唯一のフィーメル・ボーカルとして選びました。彼女のアルバムの中でも、これはリマスターのためか、このトラックのサウンドクオリティーはトップレベルです。冒頭の約30秒間程度のチェックで、スペクトルバランスと空間印象の両方をほぼ把握する事も可能ですが、音さえ良ければせめて2分半ほどまでは聞いていたいサウンドです。ドラムスのハイ・インパクトなアタックやディープなベースも効果的で、車室各部で発生し易いビリツキなどの異音チェックに使う事も可能です。ハイ・ヴォリュームでは油断大敵、意外に手強いかも知れませんゾ。




やや近接間が出易いレコーディングでは有りますが、安定した各音像や左右の広がりを、ダッシュボード上にフルサイズで表現して欲しいと思います。上下方向の音像のフラツキやボケは、当然ゼロがベストです。どのパートもスペクトルバランスが充実している曲なので、常にパワフルで情報量は豊富です。例えば60点級を狙うのでしたら、上記に加えてセンターボーカルとバックコーラスとの距離感やステージエコーの再現が必要でしょう。テナーの芯のある金属感やボディーのまろやかさも感じさせて下さい。更に、70点超級狙いであれば、センターボーカルまでの適度な距離感と、そのマウスサイズは大きくとも、やはり直径10センチ程度の輪郭でイメージされることを目標にして頂きたいと考えます。もっと贅沢を言わせて頂けるならば、ややサビの効いたKeikoのヴォイスに、どう艶を乗せるかや、テナーのリードの濡れ具合まで聴かせるという技もありえるでしょう。期待しています。



このサウンドのエネルギー感は、達郎さんの銘LP「サーカス・タウン」を彷彿させる物が有ります。音の作り方もなんとなく一寸似ていますよネ。その骨格を支えているのがドラムスのパワー感ですが、聴き所の本命は、この曲の中盤から登場するジミー・ヘンダーソンのテナーなのです。惜しくも昨年から天国で吹くことになってしまいましたが、下界で聴いてもさすがです。Keikoはまだ位負けしていて、もう一味の存在感や艶が欲しいですネ。昔々、江利チエミさんが“L”と“R”の発音で散々ご苦労されたと、今となってはほとんど化石のような話しが有ったそうな。彼女はまだそんな壁を乗り越えている途中なのかもしれません。ともあれ、このリマスターアルバムのプロデューサーさんに感謝感謝。